青いむーみん

葛城事件の青いむーみんのネタバレレビュー・内容・結末

葛城事件(2016年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

 実話風ではあるが実話ではありません。様々な殺人事件を元に作り上げたフィクションです。
 とにかくキャスティングが素晴らしい。事件を起こした犯人の父親葛城清役三浦友和はやはり予想通りの好演。子供たちに対して俺の望む息子になれというプレッシャーを与え、その監督役をやらせ、その責任を全て妻に押し付ける。今でもそこらでありえる父親像を熱演していた。葛城清はそうやって精神を侵していく。妻伸子役の南果歩も保役の新井浩文も稔役の若葉竜也も事あるごとに精神を切り刻まれる緊張感をよく表現できていた。
 この作品は最初から最後まで不協和音の嵐だがその中から稀に和音が聞こえることがある。その和音を誰かが繋いでいけばこんなことにはならなかったのに。いやいつかそうしたことがあったかもしれないが清に全てぶち壊されてしまったのだろう。その和音を信じて拾おうとするのが田中麗奈演ずる星野順子だ。彼女は性善説を信じる死刑廃止論者であり、その目的のためには手段を選ばない。自らの家族を捨ててでもその信念を曲げない。稔から何を言われても。しかしその信念は清によって疑わざるをえないものとされる。
 映画ヒメアノ~ルでは後天性、漫画ヒメアノ~ルでは先天性のシリアルキラーというテーマの違いを示したが、この作品も映画ヒメアノ~ルと同じ後天性だ。そうなってしまった環境の再現性が素晴らしい。そりゃおかしくなるわと想像ができる。
 昔、葛城家に笑顔があった頃。その時から清は息子の将来に自分の希望を示し、妻には管理をさせ、お客さんにも役割を押し付ける勝手ぶり。もとより清という人間はそんな人間であったのでこうなることは決まっていたのだ。
 それら全てを見てきた蜜柑の木はそう簡単には許してはくれない。彼の望みを簡単に受け入れてはくれない。
 この作品においては犯人の父親が全て悪いという結論が出ている。現実はそんなに簡単なものじゃない。だが、しつけや説教のような教育上のアクセントになる部分だけでなく父親の普段からの子供への愛情がその無償性を問われる作品になっているところは注意しておく点だ。