青いむーみん

パパはわるものチャンピオンの青いむーみんのレビュー・感想・評価

3.8
恐るべき小学生ファムファタールモノ爆誕。
と言いたいのだが本作ではプロレスパワーで家族の絆を深めることによって破滅は免れた。がしかし、間違いなくこの女は今後何度でも破滅への誘惑を仕掛けてくるだろう。
だがここはこの映画の副産物的なところだと思うので、まずは本筋の伝えたいであろう部分について。

ヒールレスラーの価値を子供に理解させることの難しさを描きながら最後には考えずに感じさせた筋はお見事。言葉だけでは伝わらないことをドラマで見せることが出来ていたので伝えたいことを伝えるという意味では本当によくできた物語だ。
もうそれはいい。他の人もみんな書いてるだろう。それより平野マナ(根本真陽)という強烈な女について書かない訳にはいかない。
祥太のクラスのマドンナである平野マナがとにかくえげつない。祥太は他のクラスメイトと同じようにマナに惚れているわけだが、それを利用した行動が意図的に祥太を苦しめているとしか思えないのだ。祥太がマナに対峙していると試し、背を向けると言葉を突き刺す。マーキングだ。忘れられないようにしてやがる。これは数々のファムファタールモノに使用されたありがちなロジック。だがしかし、これは小学生の話だ。父親の職業に悩みながらマドンナから試される。祥太への負荷は普通小学生には耐えられないものだろう。正直このマナという女、全てを知った上でやっていたのではないかと思う。それぐらいの狡猾さを感じる。祥太にかける言葉を思い返すとますます悍ましい。何が怖いって、まず祥太は明確に嘘をついたわけではないのに嘘つきだと罵られることが当たり前になっていて本人も否定できなくなっているのだが当然この展開にマナはちゃっかり加担しているのだ。「お前たちが騒いで、そう促したんじゃないか!」とは言えないように。
そしてこういう女はまず身近なところから手なづけていく。まずは父親だ。父親には自分の意志で毎回のようにプロレス会場に娘を連れてきていると思わせている(そんな描写はない)が実際は彼女の思うがままだ。そして次の獲物を会場で見つけたわけだ。そこからが早かった。一手一手確実に追い詰めていく。祥太とゴキブリマスク(悪役レスラー)の関係が明らかになったときの名台詞は必見。今までもずっと知っていた体で言ったと思うと背筋が凍る。膝が震える。だがしかしそこはプロレスラーの息子。マナの思惑を上回った家族の絆でなんとか交わしてしまうのだった。しかしマナはその後もまだ祥太に甘い台詞をかけて彼の心を囚えたまま物語は終わる。
なんと本作は邪悪な女に唆された少年が父親と心を通わせる事によって闇のエネルギーを跳ね返す物語だったのだ!

次回作があるなら、またマナが祥太を陥れようとする物語か、祥太の家庭を崩壊させた後の世界で当初の目的であったドラゴンジョージを落とすよう画策する物語になるだろう。
祥太なんぞドラゴンジョージを落とすまでの遊びなのだ。


プロレスとか「有田と週刊プロレスと」くらいでしか知ることはないけど十二分に楽しめましたよ。全体的に演技は予想通りですけど銀蝿こと田口選手は経験者だからなのか、あの中にいるからなのか凄く達者に見えました。子役の演出に関しては絵本の対象年齢を考えると特に言うべきではないのかな。でもお坊ちゃんがまんま嫌な奴ってのはかなり時代遅れを感じる。
不可視化された邪悪な気が支配している映画だけれども普通誰もそう思わないし、そんなものそもそも存在していないかもしれないので親子で是非ともご覧あれ。