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葛城事件のkouのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
4.0
《地続きの現実》
赤堀雅秋監督の第二作目で自身の戯曲を元に映画化した作品。鑑賞中、見ているのが辛くなるほど、決して見やすい作品でないことは確かだが、その緊張感から目をそらすことのできない強烈な作品だった。実際の事件を元に、無差別殺人事件を起こした加害者とその家族を描いている。

本作では加害者が事件を起こした後と、起こす前を交互に見せていく。事件を起こす前の葛城家の様子はとても暗く、とても嫌な感じが続く。そこには父親の力による逃げ場のない日常があるのだ。しかしそれは、決して架空のものではなく、しっかりと僕等の現実の地続きにある。それがとても恐ろしく、どこにでも起こりうるという事実がとても怖かった。

そして難しいのは、「じゃあどこが、どこから悪かったのか」ということ。だんだん増えた歪みは次第に大きなゆがみになっていくが、気づいた時にはもう直すことができない。答えのない問に単純化できない事件の持つ難解さがあると思う。

また、随所で思ったのは「人間臭さ」だ。どこまでも自分の利益のため、自分の欲求を満たすため。自分を正当化するために行動する姿はとても醜いのだが、笑ってしまうほどのしょうもなさがあり、人間なんてそんなもんだと思い知らされる。本当にくだらない事でくだらない事を口走ったり、とんでもない行動してしまう。

とても不快であり、緊張感のほとばしる映画。見る人は選ぶ作品かもしれないが強烈にこの映画について、そして事件について考えるきっかけにもなる作品だと思う。俳優陣の鬼気迫る演技、特に三浦友和が素晴らしく、日本映画の最近の素晴らしさを実感する作品でもあった。
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