こたつむり

下衆の愛のこたつむりのレビュー・感想・評価

下衆の愛(2015年製作の映画)
4.0
ハリウッド大作だけが映画じゃない。
スター俳優だけが観る価値じゃない。
絶賛するだけが良い映画の条件じゃない。
無名でも。
日常の延長線上でも。
汚くて格好悪くても。
人の心を揺さぶれば“映画”と呼ぶに値するし、心に沁みる表現ならば“一流の俳優”だし、欠点だらけでも魂に響けば“傑作”なのだと思います。本作はそう呼ぶに値する作品でした。

物語の枠組みとしては。
自主映画を撮りたい男。それに付き従う男。誰かを演じたい女。大舞台に立ちたい女。様々な思惑をひとつの箱に詰めて、思い切り振ったかのようなグチャグチャな現実。それはあまりにも立体的で、更なる裏側を見たくなる虚構。

そして、主人公は。
思わず眉を顰めてしまう男なのです。
プライドは高いし。歩く性欲の塊だし。弟分から金を巻き上げるし。でも、彼を完全に否定できないのは、どこか滑稽だから。哀しいから。そして、夢を見ているから。

手を伸ばしても届かない理想。
現実から逃れることが出来る悦楽。
その狭間で、悶えて、足掻いて、叫んで、殴って、下半身を露出させて。けれども、胸の奥にあるチリチリとした灯火だけは煌いていて。たぶん、それを否定したら自分自身を否定することに繋がるから、格好悪くても手を伸ばすのです。たとえゲスと呼ばれても。

そして、そんな彼を取り巻く環境も。
感情と欲求と打算が蠢いていてエゴ丸出し。
でも、たぶん。
それが人間なのです。
否定できない真実なのです。
確かに本作は、ゲスたちを描いた作品ですけれども、それもまた世界を構築する部品の一つなのです。

まあ、そんなわけで。
人を選ぶ作品だと思います。
低予算で製作されているから肩が下がる部分もあるでしょう(自分は劇中のスポーツ新聞にため息が出てしまいました…。流石にあれは…ちょっと…)。

しかし、ヒリヒリと痺れるような感覚は真実。
地を這い、泥を舐めるような物語や、魂に響く作品を追い求めるならば試してみても損は無いと思います。
こたつむり

こたつむり