たかちゃん

500年の航海のたかちゃんのレビュー・感想・評価

500年の航海(2015年製作の映画)
4.5
マゼランによる世界周航から500年。本作はマゼランとその奴隷エンリケの物語。
フィリピンの奇才キドラット・タヒミックが描く本作は、実はマゼランは旅の半ばで命を落とし、本当に世界一周を果たしたのはマラッカ出身の奴隷エンリケだったというストーリーである。
しかも、35年の歳月を費やして完成させた本作は、時間軸を解体し、奴隷エンリケの輪廻転生の物語に再構成した。そしていたるところに警句と暗喩を散りばめ、哲学と経済学によるドキュメントとフィクションの混合した戯作とした。つまりホラ話を楽しめばよいのだ。
二重露光の写真、ヨーヨー、石の彫刻、現代の山奥で出会う画家と老人。老人は画家に名前を尋ねる。「エンリケ」。老人は言う、「私はフェルナンド」。フェルナンド・マゼランとエンリケの輪廻転生の物語…。
エンドマークに「?」が加わり、タヒミックが「ディレクターズカットが見たいって」と問いかけ、奴隷の損益分岐点など新しい切り口で物語を再構成する。そしてこの物語が、自由、言語、航海=人生、価値観について語っていることに気づかされるのだ。
ヴェルナー・ヘルツォークの『カスパー・ハウザーの謎』(74)の引用はランゲージについて。二重露光の写真はヴィム・ヴェンダースの『都会のアリス』(73)『パリ、テキサス』(84)における写真の風景を探す旅を思わせる。そしてピーター・ジャクソンの『コリン・マッケンジー もうひとりのグリフィス』(96)のような、ドキュメントとフィクションの混在。タヒミックの語り口はゴダールのように自由奔放だ。
たかちゃん

たかちゃん