荒野の狼

ドライブサーガ 仮面ライダーチェイサーの荒野の狼のレビュー・感想・評価

4.0
TVシリーズ「仮面ライダードライブ」は、2014-2015年に放映されたが、本作は2016年に制作された「ドライブ」のスピンオフのオリジナルビデオ作品。85分の作品で、謎の女怪人(ロイミュード)のエンジェル(演、山崎真実)に、「ドライブ」では二号ライダーであったチェイスこと仮面ライダーチェイサー(演、上遠野太洸)が対峙する見ごたえのある出来。「ドライブ」のレギュラーの竹内涼真や内田理央も適度な露出で登場。
チェイサーは、人の心を持たない故に、心を持ちたいという願望を持つ。これに対して、エンジェルは全ロイミュードの望みをかなえて幸福にするという謎の女。「幸福感に包まれて満足したものは活動を停止する」というアイデアは、ゲーテのファウストを思わせるもので深い。ただ、このあたりの説明は短く、もう少し具体例を挙げていれば、物語にさらに深みが増したところではないかと惜しまれる。
主人公のチェイスは、孤独に戦う仮面ライダーの原点に帰ったような陰をもったヒーロー。エンジェルとの最終対決に、まずバイクの音だけが聞こえ、そこからバイクに乗ったチェイサーが現れるあたりは、長年のライダーファンには堪らないシーン。海岸の砂浜を一人バイクで疾走するエンディングもライダーにふさわしい。
「俺が人間に好かれる必要はないのだ。俺が人間を好きでさえいれば」というチェイスのセリフは、周囲に理解されることがなくても無償の愛を貫く姿勢だが、これは現実にも人と人との関係で起こるものであり、同じ立場になった人であればチェイスのストイックな姿勢は大いにリスペクトするところ。こうした不遇なチェイスが、それまで避けられていた人物から感謝されたときに「俺は人間に感謝された。こんな満足された気持ちははじめてだった」と涙ながらに語る時に、旧友のハートが「お前は称賛の声がなければ闘えないほど、やわな男だっだのか」と本来のチェイスの価値を思い出させようとするシーンは感動的。
他に、仮面ライダードライブのTVシリーズでは語られなかった過去が明らかになったり、仮面ライダーアクセルのゲスト出演も、ファンには嬉しい。謎のエンジェルとチェイスの緊張の高いシーンとチェイスの流血シーンを子どもたちの鑑賞に疑問視する声はあるようだが、血は生々しいものではないので目を背けるほどではなく、いずれのシーンも本作の構成上必要なシーンで、かつ節度は保たれており、ライダー作品の許容範囲であると言える。
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