ノラネコの呑んで観るシネマ

タルロのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

タルロ(2015年製作の映画)
4.2
朴訥なチベットの羊飼いが、人生初の身分証を作りに街を訪れ、彼が意外に資産家だと知った若い女に絡め取られる。
というプロット自体はありがちなものだが、ここに描かれているのは痴情の縺れではなく、それを触媒としたアイデンティティを巡る葛藤。
タルロという本名の自分と、「三つ編み」というあだ名の自分。
人民に奉仕する善人の自分と、悪人の自分。
主人公は「私は自分が誰か知っている」と言うが、本当だろうか?
モノクロの画面で、主人公は窓枠や鏡など、殆どのショットで「何か越し」に描写される。
覗き見している様な世界から見えるのは、徐々に“私”を見失ってゆく男の姿。
なかなかユニークで意欲的な寓話だった。