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大恋愛のryosukeのレビュー・感想・評価

大恋愛(1969年製作の映画)
3.8
 冒頭の回想シーン、主人公の朧げな記憶のモノローグに合わせて映像が切り替わるのがメタ的で面白い。テラスと店内を交互に移動した後、店員が回想に割り込んで「決めてくれ!」と怒鳴る。結局やってきたフロランスに促されてテラスに移る。曖昧な記憶や想像を実際に役者に演じさせるというアイデアが本作の軸になっている。噂話に尾ひれはひれが付きエスカレートしていく過程を主人公に演じさせ、最後には草木の中にエテックスが飛び込み、衣服が放り捨てられる。砂に指で「愛してるわ」と書くフロランス。その砂をすくってポケットに入れて歩き出すエテックス。ロングショットの中でサラッと見せられるコメディーのアイデアが洒落ている。
 滑り出すベッドのアイデアが本当に素晴らしかった。ブニュエル的な超現実的な趣はブニュエル組のカリエールが脚本家として入っていることに由来する部分もあるのだろうか。草原の中の道をベッドが進んでいくビジュアルのインパクトだけでなく、寝室から出ていくベッドが妻から離れる心を表現し、足を怪我した入院患者のベッド、衝突事故で廃車?になっているベッド、渋滞するベッドを見せることで、この道には先がないことをも表現しているのが実に上手い。最後には空想上の不倫相手を連れて寝室に戻ってきてしまうのだから凄いな。やはり空想シーンが面白くて、悪い相談相手が財産分与のために家電や家具を全部真っ二つにしていくエピソードなんかも素敵。前任の秘書も中々良いキャラしてるな。主人公が間違って告白をした際に、鍵をガチャッと閉めると同時に目を見開く顔が記憶に残る。
 印象的な差し色として用いられてきた赤のイメージが増幅する中で、主人公は若い女への気の迷いを断ち切る。そしてフロランスとの再開も束の間、痴話喧嘩がスタートし、噂好きの人々がそれを見つめる。しかしその光景には、これが正常、これがずっと続いていくのだという安心感がある。動き出したベッドに導かれた狂熱はやはり一瞬の夢想だったのだ。
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