Inagaquilala

ジョン・ウィック:チャプター2のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

4.0
ニューヨークの「ヴィクトリアズ・シークレット」の路面店の前で、大排気量のバイクが倒れ転がっていく。どうやら何者かに追われているようだ。ライダーはすぐに態勢を立て直し、再びバイクに跨り疾走し始める。追っているのはこれまた爆音を響かせるスポーツタイプの車だ。鮮かな夜のマンハッタンの街路を舞台に繰り広げられるバイクと車のカーチェイス。作品の冒頭から、スタイリッシュなアクションシーンが炸裂する。逃亡者の裏をかき、先回りして車体でバイクを止める追跡者。そこはH&Mの店の前だった。

はっきり言って、複雑なストーリーがあるわけではない。逡巡する主人公の内面が描かれるわけでもない。物語としては、引退した殺し屋が、その地位を守るために、やむを得ず殺しを引き受けるという話だ(ただただ復讐のために闘った前作より、多少は枝葉末節は多い展開にはなっている)。難を言えば、その主人公のジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)が、殺し屋に戻ることになる「血の契約」というものがよくわからないのだが、そんなことにいちいちツッコミを入れていると、この作品は楽しめない。

それよりも徹底した美意識に貫かれた映像と、次から次へと繰り出される趣向が凝らされたアクションシーンを堪能すべき作品なのだ。結論から言うと、前作よりも21分も長い上映時間(122分)が、まったく飽きることなく、充分に楽しめた。聞くところによれば、前作の成功に後押しされて、グレードアップされた「チャプター2」は、約2倍の興行成績を上げたそうだ。「2」が「1」を上回るということは、「1」を劇場以外(配信やDVD)で観た人間が多数いて、それらの人たちが「2」を観るために、新たに劇場に駆けつけたということなのだろう。

その「2」のグレードアップ感は、まずジョン・ウィックがローマに乗り込むところだろう(殺し屋たちにサービスを提供する「コンチネンタル・ホテル」のローマ本店も登場する。オーナー役はマカロニ・ウエスタンの顔フランコ・ネロだ)。いのしえのローマの遺跡の上で開かれる悪党たちのセレモニーに、たったひとりで乗り込み、暗殺を敢行するジョン・ウィック。その「仕事」ぶりは、あらためて惚れ惚れする。

ターゲットである旧知の女性ボスと、古代ローマの浴場のようなゴージャスな彼女の部屋で対峙するシーンは、ひたすら魅惑的だ。中央にプールのようなゴージャスな風呂が設えられた部屋で交わされふたりのスリリングな会話は、ジョン・ウィックの内面をも映す貴重な場面だ。

そして、圧巻はニューヨークに戻り、美術館での銃撃戦。鏡を多用したインスタレーションを舞台に繰り広げられる闘いは、見ていてやや幻惑されるのだが、それが妙な緊迫感を生み、スクリーンから目が離せない。かなり製作者側の思い入れが強いシーンらしく、結構長く続くが、その万華鏡のようなアクションにすっかり魅了される。

物語の設定は前作から5日後ということで、観賞後、「1」のラストを見直したのだが、あの腹部に負った深い傷は大丈夫なのかと、いらぬ心配もしてしまった。まあ、今回の作品でも、何回も自動車に轢かれているのに、一向にダメージを感じさせない不死身のジョン・ウィックだから、そのあたりはスルーするとしよう。

最後に日本の配給会社にひと言。予告編で使われている惹句の「今度の敵は全世界の殺し屋」というのは、少々勇み足ではないのか。派手なコピーで、映画館に足を運ばせようという気持ちはわかるが、この「2」では、まだ実際にはニューヨークの殺し屋にしか狙われていない。ということで、この後に続く「3」では、どんな宣伝コピーで勝負するのか、見ものだな。
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