Jun潤

リップヴァンウィンクルの花嫁のJun潤のレビュー・感想・評価

3.6
2021.03.20

予告を見て気になった案件。
「打ち上げ花火」「ラストレター」の岩井俊二原作・脚本・監督作品。

3時間という長尺だったのでなかなか見れずにいましたが、実際見てみると、淡々と進むストーリーの中にも連続性や起伏があり、飽きることなく見ることができました。

格式や風習など、世間体を気にせざるを得ない一方で、ネットの普及や人間関係の希薄化などから、「代行業」や「別れさせ屋」、「一緒に死んでくれる友達探し」など、その隙間を埋めるような職業との関わりの中で、七海という一人の女性の“解放”が描かれていたように見えました。
彼女という人間についても、全編通して丁寧に描かれていたので後半に進むにつれて感情移入がしやすかったですし、黒木華の演技やBGMとのリンクもあって終盤の泣きの場面には涙を誘いましたね。

終始綾野剛が演じる「何でも屋」の安室が七海にどれだけ深く関わっているのか、それとも関わっていないのか、あとは彼が口にしていた「ランバラル」のことなど、モヤモヤする部分もあるにはありましたが、さすが岩井監督、最後には一歩進んだ七海の姿で締めていました。

「リップヴァンウィンクル」とはワシントン・アーヴィングによる短編小説の題名と主人公の名前で、酒を飲んで寝入ってしまい目を覚ますと20年の時が経っていたという話なわけですが、今作に深く関わっているわけではないものの、七海の生活が大きく変わるときには飲酒シーンが挟まれていました。
それだけでなく、「花嫁」とついているだけに七海のことともとれますし、リップヴァンウィンクル本人は七海が花嫁となった真白のことであり、彼女もまた、親との確執や整形、AV女優という仕事、病気などで変わってしまった彼女の世界のことも言っているんじゃないかと思いました。

何が嘘なのか、体裁を整える、誰かを幸せにする嘘ならいいのではないか、嘘で塗り固められた世界の中にも幸せはあるのではないか、そんなことを考えさせられる作品でした。
Jun潤

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