ベルベー

ダンガル きっと、つよくなるのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

難しいよ。この映画実は凄い難しいことしようとしてる。父娘のサクセスストーリーで、それ以上に女性の自由な生き方を主張する大切なメッセージ性を備えた映画なんだけど…だからこそ、難しいのです。

未だ「女性は家事をするのが当たり前」という価値観が強いインドで、レスリングで活躍する女性の力強さを描いたことには深い感銘を受ける。彼女たちは最初は男たちに笑われ相手にされないけど、その実力は並の男なんて遥かに凌駕していた…勿論努力も。そんな彼女たちの姿が人々の心を掴んでいく。若者の自殺を扱った「きっと、うまくいく」もそうだけど、本作のスタッフが提起している(そして豪快に笑い飛ばしてくれる)社会問題はインドだけでなく世界中を悩ませている、同時代に於いて非常に普遍的なものなのです。だから、本作は世界中の観客を勇気付け、ヒットしたのでしょう。

それが少女たちが自ら決めた道であるなら、家族を含めた社会全体に立ち向かって勝ち取った栄光であるならー事は単純なんだけど、そうではない。ここが難しいのだけど、かつてレスリングで世界一を目指しながらも経済的事情で挫折した経験を持つ父親は、自分の娘たちを強制的に特訓させるのです。結構無理矢理に。虐待や!って叩かれても反論しづらいくらいに苦笑。

微妙なニュアンスなんだけど…彼女たちが進む道は結局「父(男)に無理矢理進まされた道」じゃないか、形が違うだけで従来の女性差別と一緒じゃないか、と言えなくもないのです。少女たち自身が嫌がっている以上。でもこれ実話だから、その大事な部分を真逆に捻じ曲げるわけにもいかないし。

製作者、特にアミール・カーンはこの点を相当自覚していたと思う。彼が演じる父親は「きっと、うまくいく」に於けるランチョーであると同時に、学生たちを縛りつけようとする学長でもあるのだ。だから本作の父親は決して聖人君主ではない。娘たちを追いやること、その正しさを信じる姿はある種の不穏さを孕んで描かれる。

これで娘たちが自発的にレスリングを愛するきっかけがしっかり描かれていれば良いのだけど…説得力不足が否めない。というより、父親に対する批判的視点が不足しているのかも。「私たちは嫁ぎ先まで決められてるのよ…それに比べて、あなたたちの父親は理解があるわ!」…そうか?って。古臭い女性差別に縛られる生き方よりも彼女たちの生き方の方が良い、とは言えるかもしれないけど、その一言で許される程父親理解があったか?と。

後半登場するコーチがダメコーチすぎて父親が活躍しちゃうのも気になるなあ。テンプレ小悪党すぎるんだよコーチ!笑 体力の衰えで娘に勝てなくなった父親が描かれたり、決勝戦は父親不在の中、完全な実力で姉が勝利したり、やっぱりこういったツッコミどころに対して、作り手側はかなり自覚的だとは思うのだけど。娘に「お前1人の力で勝たなくてはいけない」なんて説教するシーンなかったろ!!5ポイントの伏線はしっかり決まってたのになんでや!惜しいやないか!…と、結局ツッコんじゃう笑。

などなど言ってしまいましたが、それでも良作であるとは断言できます。まず、レスリングシーンの格好良さ!女性レスラーを本当に格好良く撮っている。男たちをバッタバッタと投げ倒す少女時代も熱いけど、成長してからの代表戦や国際試合ではスポーツならではの駆け引きや緊張も描かれていて、とってもスリリング。スローモーションなどの映像効果に頼りすぎず、あくまで演者の肉体の躍動を引き出す演出もgood。姉役のファーティマー・サナー・シャイクは美人な上に本物のレスラーさん?と思うくらい格闘シーンが凄いんだけど、どうなんだろう。妹役のサニヤー・マルホートラも良かった。姉の活躍メインで、妹の出番は控えめだから姉と比べると印象薄くなってはしまうけど。

それからアミール・カーンの役作りには毎度頭が下がります。壮年期から中年、後年期まで顔は勿論、肉体にここまで説得力を持たせる俳優他にいますか?てか伸縮自在ですかあなたの体…って感じ笑 「きっと、うまくいく」では40代で余裕の大学生役だった彼も50代突入。と思ったら今度は実年齢以上の父親役で、そうにしか見えないという…凄いなあ。スターでありつつ、若い娘役たちをしっかり立てているのも素敵です。

歌はインドだからしっかりあるけどかなり控えめ。ディズニーが製作に噛んでるから当たり前っちゃあ当たり前なんだけど、撮り方も話の進み方もハリウッド的だよね。良い意味でも、多少悪い意味でも。
ベルベー

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