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恋妻家宮本のkaomatsuのレビュー・感想・評価

恋妻家宮本(2017年製作の映画)
3.5
一昨年前のある日、日頃よく使う、とある駅の看板を見ると名前が変わっていてビックリ。駅員さんに聞いてみると、映画撮影のため、一時的に福島県の架空の駅名に変えられたとのこと。その駅名「鯉津真(こいづま)駅」は、まさに本作のタイトルを文字ったもので、最も重要なクライマックス・シーンに使われていた。映画の中では、主役の阿部寛さん、天海祐希さんの確かな演技によって、普段は当たり前のように見ていた日常的な風景が、ガラリとロマンティックな異空間に様変わり。やっぱり、映画ってすごいな。

結婚27年目の宮本陽平(阿部寛)と美代子(天海祐希)。一人息子が結婚して福島へ転勤となり、夫婦二人だけの生活となった夜、ふと陽平が、昔に美代子にプレゼントした志賀直哉作の小説「暗夜行路」を本棚から引っ張り出す。すると、ポロッと本のページの間から落ちたのは、美代子があらかじめ書いて用意していた離婚届だった。その事実にショックを受け、美代子に真相を聞こうとするが、小心者で優柔不断な陽平は、なかなか切り出すことができず、疑心暗鬼になる。学校の教師としては真面目に働き、問題を抱えた生徒たちに対しても真心で接する陽平。様々な夫婦関係や家族の絆に触れながらも、自分が妻に捨てられるのでは?という危機感が拭えない。陽平は意を決して、美代子が息子の住む福島に旅立った際、後を追い、離婚届の真相を突き止めようとするのだが…。

全編を覆うコミカルな雰囲気が、割とシリアスな家族の諸問題をオブラートに包み、楽しく観ることができた。これもひとえに、脚本家としても定評のある遊川和彦監督の演出力と、真面目な優柔不断男を演じたら右に出る者のいない、阿部寛さんの渾身のアクトによるもの。脇のキャストも磐石。高村光太郎氏の一編の詩「道程」についての、陽平の授業のシーンは、真剣に教鞭をとる陽平に対する、生徒たちのお約束のツッコミが笑いを誘う。個人的には、陽平のクラスのやんちゃな生徒に正論できつく当たる祖母に対して、それを諭すように、「正しさよりも、優しさ。優しさと優しさが重なれば、もっと優しくなれる」(正確ではありません)と陽平が言うシーンは、最近の私の心境と見事に重なり、最初に書いた駅でのクライマックス・シーンよりも、胸にジーンと響いた。
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