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世界の涯ての鼓動のnetfilmsのレビュー・感想・評価

世界の涯ての鼓動(2017年製作の映画)
3.4
 ダニー・フリンダーズ(アリシア・ヴィキャンデル)はグリーンランドを想定した水中訓練に励んでいる。深海を想定した海底数千マイルを体験しながら、潜水服の中から見つめる世界のイメージ。ダニーはそんな訓練の最中、1ヶ月も連絡の付かない恋人のことを想っていた。一方その頃、ソマリアでは一人の男が幽閉されていた。コンクリートの壁から伸びた白い手。その手をソマリアの子供たちは気に留めながらも素通りして行く。ジェームズ・モア(ジェームズ・マカヴォイ)は口の渇きを癒すことも出来ぬまま、壁の隙間からナイロビの光を覗いていた。2人は数日前、フランス・ノルマンディーの海辺に佇むホテルで情熱的に出会ってしまった。浜辺をジョギングしながら振り返ったジェームズの表情にダニーは何かを感じ取る。その後食事を何度も共にしながら、互いの仕事の話を聞くうちに、互いに運命の恋だと確信した2人は深く愛し合う。たった5日間の滞在だったが、別れの時は酷く2人を感傷的な気持ちにさせた。風光明媚なノルマンディーの風景から2人はそれぞれにアフリカ・ソマリアとグリーンランドの深海へ。ジェームズは水を整備するためにソマリアを訪れると彼女を偽っていたが、実はMI-6の諜報員で爆弾テロを阻止する命を受け、ソマリアの地を踏んだ。

 ヴェンダースにしては珍しいロマンチックな男女の物語は、地球の最果ての地へ互いを引き裂いて行く。それは最果ての地で繰り広げられる生命の起源と命の終焉の物語に他ならない。ダニーが深く潜行しようとするグリーンランドの海底は幾つものレイヤーを作る地上とは別の美しい楽園となっており、知られざる地球の神秘を明らかにする場所だ。一方のアフリカのソマリアもイスラム国のテロリストが潜伏しており、諜報員のジェームズはたった一人でテロリストを探し、爆破テロを未然に防ごうとするのだが残念ながら彼は生け捕られ、いつ処刑されるともわからない切実な時間を生きる。かつて世界中どこへでもバックパックとカメラ一つで旅立った身軽なヴェンダースは、人間の表情を見て幾つもの文化が多様に積み重なる人間の豊かさをすぐさま感じ取る。人間は肌の色や人種や性別などで線を引けない動物だと言いたいのだろうが、今作では旅立った先で主人公は生け捕られてしまう。そこには紛争や文化、宗教など幾つものレイヤーが異なる人間たちの世界があった。

 ゴール・キーパーから見たペナルティ・エリア、東西ドイツの国境線、覗き部屋のすりガラス越しの世界、監視カメラに映ったフレームの内と外。絶えず今いる世界の内側と外側を強く意識して来たヴェンダースが見つめた世界の最果ての姿。海には住む世界の違う魚たちの海層があり、地上の人間たちにもロジックでは簡単に乗り越られない出自が人間たちに国境とは違う線を引く。アフリカとグリーンランドという絶望的な距離にありながらも、水という共通項で強く結ばれた男女の心は最期の瞬間も強く結ばれている。
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