マカ坊

世界の涯ての鼓動のマカ坊のレビュー・感想・評価

世界の涯ての鼓動(2017年製作の映画)
3.7
J.M.レッドガード原作「submergence」
によると、ジェームズ・マカヴォイ演じる主人公のジェームズ・モアはあのユートピアの著者トマス・モアの子孫であるという設定らしい。

MI6でジェームズ。

当然あの女好き海軍中佐の姿が浮かぶが、なるほど資本主義社会の申し子としてのジェームズと、共産主義的理想郷を提示したモアの折衷ネーミングと考えると、分断社会への問題提起を掲げる今作の主人公の名前としては、それなりに意味のあるものになっているとも思える。

今作に限らず海外の映画を見ていると、要所要所で何らかの詩が引用される事がとても多い気がする。
そしてほとんどの場合その詩が映画全体の所謂「テーマ」を語っている。(海外では学校とかでしっかりと詩を学ぶんですかね?日本だとそこまで詩について学ぶ機会は多くないと思うのでこの辺の基本的な教養の違いがすごく気になる)

この映画も御多分に洩れず、「誰がために鐘は鳴る」であまりにも有名なジョン・ダン「瞑想録」の一節を引用するシーンがある。

超簡単に言ってしまえば、「人間は皆一人じゃないんだから自分と関係のない他人の命にも関心を持ちましょう。愛を持って。」というメッセージが割とストレートに示されるシーンで、意外とベタというか王道な描き方がされてるなぁという印象を受けた。

ラストシーン含め印象的なショットも多く、何より主演二人の表情の演技が素晴らしかったので退屈せずには観られたものの、何故だか私のイエローサブマリンは心の海底には届かなかった。

その理由のひとつは言うまでもなく私自身の感受性の乏しさが原因だが、もう一つ、この作品が2017年制作の映画だと言うことも大きく関係している。

所謂対テロ戦争は、米軍のアフガニスタン撤退がいよいよ現実味を帯びてきている事などに象徴されるように、2017年当時とは最早違うフェーズに移行している。
そんな2019年現在に、「男女の愛と多文化への理解」や「職業上の義務と宗教的義務」を重ね合わせるというストーリーはそれこそ悪い意味で西洋的で、何ともナイーブすぎるように感じた。

境界を持たないものの象徴としての海や水のイメージは美しく興味深いものだったので、公開当時に観ていたらもう少し違う感想を持ったかもしれない。

アメリカでは日本より1年ほど早く公開されていたという事で、海外と日本で公開時期がずれると鑑賞後の気持ちにもズレが起こるんだなぁという事を改めて認識した作品でした。
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