YasujiOshiba

君の名は。のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

君の名は。(2016年製作の映画)
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ようやくキャッチアップ。エアチェックしたつもりが紛らわしいタイトルのおかげで前夜祭的な2本をとっただけ。それならと配信サービスを利用してCMカットの手間を省くことに。

既視感のある作品だが、その既視感こそをテーマにしながら、忘却に対するフィクションからの抵抗が表明されたというわけか。「君の名は」に添えられた句点の「。」は、係助詞の「は」が従えるはずの固有名を空位のままにしておく意思なのだろう。それは、既に常に失われたあらゆる個々の名辞への鎮魂にほかならない。失われたものは失われたままでぼくらの傍にあるのだが、その傍の存在(あるいは不在)を語ることこそは、あらゆる物語がひそかに目論んでいることなのだ。

ぼくにとってこの映画の先達は、時空を隔てたイタリアのフェリーニの『道』や『カビリアの夜』のような作品。『道』はジェルソミーナにローザが、あるいはザンパノにジェルソミーナが、時空を超えて寄り添うものがたりなわけだし、『カビリアの夜』は殺された女たちが殺されることなく生き残る物語。どちらも「不気味なもの」が実は、もっとも親しみの持てるものだったこと描き出すフィクションであり、フィクションならではの物語だったではないか。

もちろん、ぼくが思い出しているのは彗星の事故ではない。奇しくも元祖『君の名は』(1952)がNHKのラジオドラマとして戦争体験を語るものだったとすれば、この『君の名は。』が語ろうとしている体験が「3/11」であることは明白だ。そしてラジオドラマの元祖が戦後7年で、戦争の話をしながらも恋愛ドラマとして人気を博したように、この句点付きのアニメ映画も、大林信彦の『転校生』(1982)を彷彿とさせながらも、宇宙的な飛翔感にあふれる新海誠らしい映像で魅了する。

なるほどヒットするわけだ。
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