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ホームレス ニューヨークと寝た男のmidoredのレビュー・感想・評価

3.3
ニューヨーク州マンハッタンに住む、とあるホームレスの男性に密着取材した2014年のドキュメンタリー。ファッション業界に身を置く美形の写真家にしてホームレスという異色の経歴の向こうに、大都会の華やかさや残酷さ、資本主義社会の歪み、そして終わりのない青春のような自由の香りまでもが漂います。おしゃれなNY版『ザ・ノンフィクション』といった作品でした。

まず、主人公のマーク・レイ氏(52歳)の美しさに目が惹かれます。元ファッションモデルだけあって体型維持および身だしなみを整える方法を心得ており、ホームレスなのにジェームズ・ボンドかバットマンに変身する前のブルース・ウェインのようで、とても困っている人には見えません。だからこそ苦境を見過ごされ、無駄に長く夢も見てしまったのかなとは思います。こうなると美貌も良し悪しです。

そしてこれほど華があっても、ニューヨークでは有象無象のひとりにすぎないというのが驚きます。彼がカメラで追う現役モデル達も現実とは思えない美しさなのに、世界中から集まってくるから街にはありふれるほどいるのですね。ニューヨークとは実にたいへんな所だなと改めて思います。『真夜中のカウボーイ』を思い出しました。

とはいえ、そもそも、ファッション業界というものはアパレル産業含めると世界規模で広がる資本主義の弱肉強食ピラミッドの頂点とも言えるので象徴的ではあります。勝つのはほんの一部、あとは全員が負け組のマーク・レイ氏のような無名の人たちです。だからこれは他の誰かが大勢負けることで成り立つ栄華の物語の舞台裏です。自分を好きになれないのは、そうした業界にいるせいであるし、自分が好きじゃないからこそ離れられないとも言えるのかなと。途中で流れる『You’re nobody ‘til somebody loves you』はズバリすぎて唸りました。

その後のレイ氏が気になり検索してみましたが、どうも鳴かず飛ばずのようでした。Wikipediaにも、映画が公開されてから大手マスメディアの取材を多数受けた後に、屋上にあった寝床を何処かへ移したくらいの記載しかありません。

還暦を越えた今も大都会のどこかで野宿を続けているのでしょうか。それとも心機一転実家に戻り、壊れた柵を直したり家庭菜園などしてYouTuber生活でしょうか。

自由意志でなるホームレスと、追い込まれてなるホームレスに本質的な違いはなく、どちらも非人道的な状況にあり、助けを必要とする人たちだと思います。アメリカン・ドリームの魔力をも体感させてくれるドキュメンタリーでした。
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