フッカー

海よりもまだ深くのフッカーのネタバレレビュー・内容・結末

海よりもまだ深く(2016年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

「なりたかった人に、なれなかった大人へ」
予告でみたこの文章、言葉が俺の心を掴んで離さなかった。ので、見ました。

ぽろぽろと綺麗な音色、口笛のような透き通る高音、しっとりと優しく現れるタイトルとキャストの文字達。是枝監督作品は初鑑賞なんですが、「あぁゆっくりと穏やかで優しいなあ」
そんなしみじみとした気持ちにさせてくれるオープニングで、お話は始まりました。

凄く日常的な風景、動きがなんだか柔らかく映し出されている気がして、自然にこの篠田(阿部寛)達の暮らしに入っていけた。

登場人物達の台詞がとても印象的。
「愛ってのは無くしてから気付くもんなんだよ」
「過去の人になって初めて、大人の男になるんだ。」
「女は油絵。次の人ができたら上から重ねて、下層は薄くなっちゃう。でもデータ上書きとは違う。ちゃんとココに残ってる。」
「蜜柑の木だよ。花も実も生らない。けど青虫の、何かの役には立ってる。」

こんな台詞の数々が時には自らの経験を思い出し心に刺さり、時には登場人物の気持ちに感応して温かくなる。悲しくもなる。

過去の愛と今の愛。
どちらか一方ばかりを追いかけているようで、どちらも追いかけている。
そんな中での色んな人達の、一つの区切りの話。なれなかった大人、その結果部分だけフォーカスするんじゃない。大事なのはそこじゃない。

キッチリした彼女が「穴」から躓きながら飛び出して、皆で雨の中動き回ってるシーン好きだなあ。
あと篠田の白シャツの後ろ姿。

とてもしっとりとした、丁寧で、温かい映画でした。好きだなあ、良かったなあ(*´∀`)お気に入りです!
そうそう、くすくすと笑えるシーンが多くて思わず小さな笑い声を出しながら見てたのですが、周りの方はもっと笑ってました。その笑い方が優しくて館内の雰囲気が良かったなあ。

これら含めて4.1→4.2にしよっ!

映画がしとやかだったから文章も何かしっとり書いちゃってるわ笑笑

追記:
新宿ピカデリーで2回目の鑑賞
そして人生初トークショー。
とっても良かった。

映画って見る側の汲み取ろうとするその時の気持ちによって、伝わってくるものの強弱が変わるなあと。
1回目は温かみを強く感じたけど、2回目は切なさを強く感じた。

ダメ男を見つめる眼差し。
現在に満ち足りていないのは良多だけじゃない。夢破れたのは良多だけじゃない。こんなはずじゃなかった
そう何人もの人物が口にする。
心を分け入ってくる切なさ。
しかし、悲痛なだけではなく、温かみにサンドイッチされた切なさ。だからこそこんなに際立つのか。

作中で何度も耳にしたアレという言葉。
アレするか。まあアレだよ。
期待を込めたアレ
寂しさが残るアレ
過去から流れる現在へ辛さを帯びるアレ
触れたくないアレ
気になるアレ

この微妙だけど、曖昧だけど、意識してしまう人の気持ち。白か黒かで単純に考えられたら楽だけど、生きてくのって、感情って複雑。
そんな広がりある人の気持ちを感じさせる使われ方でした。アレという言葉。

新しく気づいた彼等の表情。そして2回目もまた同じく刺さる言葉たち。タイトルの言葉が深く余韻を残す。
あのラストカットは、きっとまだ途中で振り切って歩いて続く今を、そんな切り取りを表しているのかな。
深呼吸。印象的な深呼吸。

この映画の、音が、台詞が、表情が、自分の中に鐘の音のように響き渡って止まない。共鳴して鳴り響く俺の気持ち。心。とても暖かい余韻。
大好きだ。

2回目だからこそ初回の感動から一歩おいて、でももっと寄り添って見ることができた。
そうそう劇場で感じた柔らかさも、(計らずも初日に見た)劇場のときと、このピカデリーのときとは、また違った優しさが流れてた。こういう劇場の空気良いなあ。

俺の心を掴まえて離さない作品。
ぎゅっと心のなかに染み入ってきた。
1回目4.2→2回目4.6へ。
そして2回目にて間違いなくベストムービーへ。
海よりもまだ深く、良かった。