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海よりもまだ深くのBGのレビュー・感想・評価

海よりもまだ深く(2016年製作の映画)
4.3
地味な映画である。劇的なことなど何一つ起こらない。何一つだ。それでも是枝監督の緻密なストーリーテリングと役者陣が生み出す空気感により、心に染み入る名作となっている。クスッとさせられながら、心の奥底を揺さぶられる。そんな余韻深い映画だ。樹木希林力も半端ない。阿部ちゃんも最高だしね。小林聡美やリリーさん、池松君もスパイスとして絶妙。真木よう子の視線がリアルでおっかない。
主役の阿部寛演じる良多は自称小説家だが、もうどうにもならないとこまで来てしまっている。人生に挑むことを恐れ、過去に囚われ、無為に過ごす日々。幸せになることを諦めてしまっているかのようだ。いや、自分にとっての幸せを見失っているのではないか。こんなはずではなかったと。
「なぜ今を愛せないのか。」終盤にある台詞だ。人生では特別に幸せなことなんて、そう起きるものではない。日常に、日々の中に薄まって、希釈され
ている。そして、そうと気付かぬうちに、壊れ、失ってしまっているのかも知れない。象徴的に描かれる、墨と硯、カルピス、愛、窓ガラス、饅頭と煎餅、傘、家族…。あとはほら、アレとかね。
地味な映画である。劇的なことなど何一つ起こらない。何一つだ。海よりもまだ深く、誰かを愛するようなドラマチックな展開もない。それはまるで現実のように。それでも、人は今を生き、幸せを感じることだって出来るはずだ。観終わったあと、自分の人生を見つめたくなる傑作である。
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