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ダンケルクのdeenityのレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
4.4
クリストファー・ノーランの新作ならばそれだけで見ておかねばなりませんが、それ以上に映画館で見ることができる今、直接ダンケルクでの戦いを体感してほしい。そう思わせるような圧倒的迫力を持った作品。

圧倒されたのはホイテ・ヴァン・ホイテマとハンス・ジマーによる映像と音楽の力。IMAXで鑑賞したというのはあるが、絵の前に広がるリアルな戦場はなんなのだろう。この重低音が響く重苦しい閉塞感はなんなのだろう。元々ノーランがCGを避けて撮影しているのは知っているが、本作に広がるのは間違いなく本物だ。そこにいる一人の兵士と同じ視点で見えるリアルなのだ。そして、そこに聞こえるはずもない、しかし、常にまとわりつくような時計のチクタク刻む音には緊迫感を突きつけられている兵士と同じ気分にさせられるのだ。
これだけは間違いなく「お家でDVDでゆったりと」なんて環境では味わうことができない。劇場で味わうことが重要なのだと思う。

本作を鑑賞してからダンケルクでの戦いを調べてみた。
第二次世界大戦時、ドイツがヨーロッパを侵攻し、激突したイギリス・フランス軍が徐々に追い詰められ、ダンケルク港の逃げ場のない状況にまで攻め込まれた。しかし、ドイツ軍が何故か最後の詰めを躊躇したため、その隙を利用してイギリスはダイナモ作戦を実行。小型船で敵地にいる兵士の救出を行なった。
本作で取り上げられているのは脱出模様で、その軍事的なやり取りは一切映されない。つまりは作戦成功云々ではなく、作戦により生とどう向き合うかというのが主題である。
史実に基づくわけで、作戦としては大成功に終わるわけだが、例えば日本の戦争を知っている我々日本国民からすれば、「自国のために命を捧げることこそ大和魂」みたいなところはあるわけで、ともすればこのダイナモ作戦時代は国民の大バッシングの標的となり得る可能性は十分にあるわけだ。チャーチルもスピーチで語ったそうだが、「撤退に成功しても戦争には勝てない」とはまさにその通りで、ダンケルクからの脱出に成功しても戦争としては負けなのだ。

だが、そんな厳しい現実の中に与えられたカタルシスは本当に素晴らしかった。
負けて帰った兵士達。非難されたって不思議じゃないのだ。唾を吐きかけられることだってあり得たのだ。しかし、駅で待ってた光景はそうではなかった。ビールを掲げて笑顔で迎えてくれたのだ。「負けた恥知らず」ではなく、「生きて帰ってくれてよかった」なのだ。生きていることこそ素晴らしい、と教えてくれた気がする。

じゃあ実際どれだけの人が助かったかと言えば30万以上のものすごく多くの人が助かったのだけど、しかしそれで全てだったかと問われればそうではないし、当然のことながらドイツ軍と対峙した兵もそこにはいて、作戦成功の裏側には多くの犠牲があったのも忘れてはいけない。

さらに言えばこの作品は海岸で助けられる兵だけの視点ではなく、空軍として戦うトム・ハーディなどの視点や小型船で救出に向かうマーク・ライランスなどの視点もある。格好よく仲間のためにガス欠ギリギリでも戦った英雄もいれば、多くの兵士を救った名の知れない英雄たちもそこにはいた。
そういう一つ一つの多くの犠牲と援助があったからこそ作戦は成功し、生きて帰ることに繋がったのだ。

ノーランは「本作は時間との戦いを描いたサスペンス」と言ってるそうだが、個人的にはまるでダンケルクを体感できるような戦争映画と捉えてもいいようにも思う。それくらいテーマとして重みのある作品だ。
戦争映画だが血が出たりするようなグロテスクな表現は一切なく、それでいて怖いのに不思議と目を離せなくなるようなサスペンス要素もあり、劇場で見れる内にもう一度見ておきたいと思う。
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