あのノーランが106分のコンパクトな上映時間。ミニマムでバキバキな映像体験ができると期待していた本作。
陸海空の3つの視点から異なる時間軸で描かれる撤退戦。ラスト近くの3つの迫り来る危機を同時に見せたのは緊張感が持続して良かった。あれがないと記録映画という印象を受けただけだった。中盤ぐらいまで役者が役者である必要がないと思ってただけに興味の持続という意味で上手くはまったなと思う。
リアルを追求した映像は素晴らしいと思うし最後の戦闘機の前に立ちすくむトム・ハーディの画も良かったが全体的には劇映画的なハッタリが薄味なのがイマイチなところか。
それにもう少し混沌したダンケルクを描いてほしかった。ジョー・ライト監督「つぐない」のダンケルクの浜辺を捉えた5分間長回しを超える映像体験がほしかった。「つぐない」とどちらがリアルかはさて置き物足りない。
感情移入を拒む映画だった。それが悪いとは思わないがこの戦場を追体験する意味ではしたかったし特に中盤までは物語の起伏もないに等しいので…と思う。でもまぁ映像で引き込んではいるのでいいのか。
監督があまりに生真面目だからかここには仲間内の冗談も笑っちゃうくらいの悲惨さもない。個々のヒーローは描くのに不必要と判断したからだろう。
しばしば監督のその真面目さは批判されるが自分は嫌いじゃない。もちろん作品ごとに好みはあるが。
前衛映画みたいな佇まいなのに思い出したかのように最後感動ポイント連打するあたり憎めないところだ。でもラスト１秒のあのトミーの眼はそうじゃないよと言われてる気がしてね。ノーランの意地も見たよ。
