たく

パーフェクトマン 完全犯罪のたくのレビュー・感想・評価

3.6
芽の出ない小説家志望の男が他人の手記を盗用して人気作家となる話で、なかなか面白かった。邦題に「完全犯罪」って付いてて、計画性の無い行き当たりばったりの展開にどこが完全犯罪なんだって思いながら観てたんだけど、ラストでなるほどってなった。

自作の小説が一向に売れず、運送業をしながら欝々と暮らしてるマチューが、孤独死した老人の遺品整理の仕事中に彼のアルジェリア出兵時代の日記を見つけ、それを丸ごと盗用して自作小説として出版しちゃう(なんか「イエスタデイ」みたい)。これが売れに売れて天才作家扱いされ、憧れの女性も手に入れたマチューが、当然のことながら次作が書けないまま3年過ぎる。ここまではまあまあありがちな展開なんだけど、老人のアルジェリア出兵時代を知る知人が登場し、金を払わなければ真相をバラすとマチューをゆすっていくあたりからジワジワ怖くなってくる。ここからマチューが自身の望まぬ犯罪を犯さざるを得なくなっていくのがちょっと「ファーゴ」みたいで、どうしたってバッドエンドを予想するんだけど、意外なラストがやってくる。なるほど彼はパーフェクトマン(原題は「理想の人」)のまま人々の記憶の中で美化されるというわけね。

中盤で吹っ切れたマチューが急に目覚めたように次作を書き上げて、おそらくこれは傑作だったんだろうけど、それを生み出す源泉となったのは自ら犯した殺人だったというのが皮肉。つまり本作は「創作に伴う狂気」を、犯罪を犯すことで傑作を生むという倒錯した行為として表現してるんだと思った。これは「ミッドナイトクロス」にも通ずる。マチュー役のピエール・ニネは今年ベスト級の傑作「ブラックボックス:音声分析捜査」で主演を務めてて、そこでの役名もマチューだったね。あと本作の監督であるヤン・ゴスランは「ブラックボックス」も監督してたんだ。
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