MikiMickle

シング・ストリート 未来へのうたのMikiMickleのレビュー・感想・評価

4.2
1985年ダブリン
親の財政難から、イエズス会の学校からカトリック系の荒れた学校に転校させられる事となる14歳のコナー。

教師や同級生のいじめの中、門の外に立つひとりの女性に一目惚れする。モデルを目指しているというラフィナについ口走ってしまったのは「僕らのバンドのMVにでないか?」という言葉。しかし、バンドなど組んでいないコナーは、自称“学校のコンサルタント”の赤毛のダーレンと共に、マルチな才能のあるエイモンらをスカウトし、バンド“シングストリート”を組むことに。

監督の半自伝的青春音楽映画です。


まず、当時のアイルランドの状況を知れるのが個人的にすごく面白かった♪
カトリック系の学校と聞いて、コナーの兄が大 麻を巻きながら「モットーは“生徒を犯せ”か?」と言うシーンからブラックと批判に満ちていて「おおっ‼」と‼
そして、その学校も聖職者である教師が授業中に酒を飲んだり、スキンズらが学校を牛耳っていたり授業中にたばこを吸ったり、オープニングだけでなんかワクワクする♪当時のアイルランドの情勢がわかって。

そして、音楽はやはり音楽映画だけあって本当に素晴らしい‼‼
それにまつわるネタも面白い♪
先生に悪質なお仕置きをくらったら、クラッシュの「I fought the law」‼
僕を受け入れてと歌うa-haの「take on me」とか、イギリスのデュラン・デュランのMVに憧れていたりとか、スティーリー・ダンとか、黒人をメンバーにいれたらはくがつく(イギリスの2トーンスカからきてるのだろう)とか、バグルスの「ラジオスターの悲劇」とか、 イギリスの音楽にアイルランドの若者が憧れを抱いていたんだなと。
MVも80年代風で、私はリアルタイムではないにも関わらず、なんかすごくウキウキしたのです♪

そして、エイモンとコナーで作り上げる彼らのバンドの曲が素晴らしくて…
本心の歌詞と曲調がぴったりとマッチし、思わず涙が込み上げてしまいました…

ファッションも面白い‼コナーは多分親かお兄ちゃんのお下がりであろう茶色いジャケット、いじめっ子のバリーはMA-1のスキンズ、モッズコートに、革ジャンに、ケミカルウォッシュの上下など。
そして、コナーがはまっている音楽によって、ファッションを変え、時にメイクをしたり、それがなんだか、キュンとなります。

コナーの音楽好きのお兄ちゃんも良い‼名言「フィル・コリンズを聴いてる男に女は惚れない」(笑)  中盤で兄が本心をぶつけてくるシーンがあります。胸が張り裂けそうになりました…

さて本題。ザ・キュアーの曲で、悲しみのなかにある喜びについてかたられるシーンがあります。「クソ溜めの中から見つける喜び。」まさにこの映画の本質ではないかと。
そして、音楽と自我というものについても非常に共感できました。私が自我を確立する上で、音楽というものは最も影響を受けたものでした。自分は自分でいいと思わせてくれたのは音楽。コナーたちを見ていると、まるで若かりし頃の己を見ているようで… 外れ者たちが音楽によって自信をつけ、脱いじめられっ子になる姿は胸がぎゅっとなります。

一見して、この若者たちは才能が溢れ、結局“持っている”者たちではないか‼と思ったりもします。才能が羨ましいな…と。こんな才能ないよ…と…
が、誰にしても、どんな事でも、誰しも才能があるのです。たとえそれに気付いてなくても。それを、いかに怖じ気づく事無く、勇気をだして発信する事が大事なのだと。
そして、何故彼らがその才能があったのかを考えると、誰にも理解されない環境の中で、それぞれが“音楽愛”を持ってこそこそと長年費やしてきた結果なのだと… 映画内では主人公以外のメンバーの事は全く語られませんが、それぞれにあるそういった経緯を感じ、切なくも素晴らしいなと。
多分外れ者であろうメンバーたちのそれまでの日常と、バンドを組んでからの喜びとが…

ラフィナの夢がコナーを巻き込み、更にその夢は素晴らしい連鎖へと繋がる。掃き溜めの中から喜びを見つけるという。明日へ向かって突き進むには、勇気と覚悟と犠牲が必要。しかし、そこには遅いも早いもないのではないか。そういった勇気をもらえるような、素晴らしい映画でした。
サントラも欲しくなります。
MikiMickle

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