ねーね

シング・ストリート 未来へのうたのねーねのレビュー・感想・評価

3.0
いわずとしれた最高傑作、『はじまりのうた』のジョン・カーニー監督による音楽映画第三弾。
ド直球ストレートの青春が胸を衝く。

くすぐったい告白をしますが、
子どもの頃、ある職業に就きたくって、夢さえあれば将来絶対叶えられる!って信じてました。
そのときの自分にとってはそれが世界の全てで人生の中心だったんです。
でも大人になってみれば青臭くってくだらなくって、
そんなの無理に決まってるのに、なんであんな必死だったのかなって恥ずかしく思っちゃうようになった。
悲しいかな、世間体とか、プライドとか気にして、失敗がこわくて、どこにも飛び込めない、錆びた弦みたいに頑なな自分だけが残ってしまった。
私にとって、コナーは、眩しすぎました。
そんな眩しさに耐えられる大人は、これを観て初心に帰ってほしい。

自らロックバンドとして活動もしていた監督にとって、
ある意味ホントにやりたかったのはこんな映画なのかもしれないですね。
『ONCE』『はじまりのうた』には無かったものが、全部ここにはあって、
あんまり青すぎるものだから、つい私なんかはひねくれてるので色々余計なツッコミを入れたりしちゃうんですけど、
これって一種のミュージックビデオみたいな映画なのかな。つまるところ。
前作であれほどそれぞれのキャラクターの過去とか、悩みとか、そういったものを掘りさげまくっておいて、
結構そのあたりは今回単純化されてる感じがしたので。
ヤンキーくんの心境の変化とか、知りたいことはたくさんあったんですよね。
あの兄弟に挟まれて育った可愛い妹のこととか、ンギグの人間性とかね。
でもまあ、そのへんの葛藤パートはお兄ちゃんが担ってくれてるのかな?とも思ったので、
物語をテンポよく進めるにはこれくらいがちょうどよかったのかもしれない。

けど、りんごほっぺ坊やだったコナーくんの変貌ぶりには泣かされたのも事実。
80年代を彩るバンドに影響され、音楽性だけでなく、
ファッションや身のこなしまで器用に変えていくさまには、
さながらファッションショーを観ているかのようなワクワク感をもらいました。
(黒い靴も買えないくせに、クローゼット広すぎるよね?なんてつっこんでしまう大人気ない私)
ふわんふわんだった少年が、真っ直ぐ地平線の向こうを見据えて、
言いたいこともいえないこんな世の中じゃ~~って叫ぶシーンは痛快でしたから。
彼はあの学校じゃ、サイコーのロックンロール・ヒーローとして、その姿をみんなの目に焼き付けることができたんじゃないでしょうか。

そしてなによりも、カーニー監督は、音楽に乗せた思いを映像化する天才なので、
コナーたちが体育館でMV撮影するシーンには涙腺を直撃されました。
彼の、叶わぬ思いが詰まったカラフルなダンスたちと唐突なバク転をみて、もう胸がいっぱいいっぱいで、涙が枯れてなくなるんじゃないかと。
ラストシーンがチープすぎるんじゃないかとか、あまりにひねりのない願望物語じゃないかとか、いろいろ文句は垂れたけれど、このシーンだけで帳消しになるくらい素晴らしかったです。
それとも、あのシーンからずっと現実じゃなかったのかもね。(なんて)
たとえそうだとしても、若い頃の自分にあったあの強い衝動と冒険心を思い出させてくれるには、十分すぎるほどでした。

未来をつかめなかった80年代世代だけでなく、どんな人にも響くであろう兄弟愛、家族愛、恋愛、音楽、青春のすべてがありったけに詰め込まれた渾身の一作。
きっと誰もがこの映画を、そしてすこしだけ自分のことも好きになれるはず。


ちなみに私はエイモンくん推し。
笛吹いてるエイモンくんと、ウサギとじゃれるエイモンくんが可愛い。
ねーね

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