Kuuta

シング・ストリート 未来へのうたのKuutaのレビュー・感想・評価

4.0
丸の内ピカデリーの爆音上映から帰宅直後ネトフリでもう一度見たが、2回とも曲が流れるごとにほぼ泣いていた。ここまで来るともはや生理反応、どうしようもない。ジョンカーニー作品はこういうテンションになってしまう。

音楽が組み上がっていく感動が、現実を一瞬で飛び越える。毎度のことだが、その見せ方が抜群に上手い。歌詞に心境をストレートに乗せる話運びといい、つくづくミュージシャン出身の監督らしいなと思う。

BTTFオマージュの「Drive it like you stole it」。何度も体育館のドアを見て、外から飛び込んで来るラフィーナを、未来を待っている。一番辛い時こそ、一番あり得ない妄想をしてしまう。あるべき未来に未来派の音楽の力で帰ろうとする。でも現実は動いてくれない。切な過ぎる。

ところがラストのライブ。兄貴も両親も来ないし、校長も怒り心頭だが、ラフィーナが会場に来るという夢が叶う。ここで落涙。そのまま2人は世界へ飛び出す。未来は明るいとは限らないけれど、最後の表情でまた涙。

onceから続く掃除機愛。音楽製作中の窃盗被害もお馴染みの展開だし、心境に応じて服装が変わっていくヒロインや、曲作り中の差し入れシーンももはや鉄板ネタに近い。

ラフィーナは最初は階段の上に立っていて、コナーが見上げる。テープを渡しに行く2回目の会話では、ラフィーナは階段に座っていて、コナーの方がリードする。ラフィーナが失意の中施設に帰ってきた場面では、コナーが初めて自ら階段を上がる。

未来派なのにジョンテイラーをジェームステイラーと間違えるという小ネタ。ラフィーナの彼氏から「未来で会おう」というBTTF感。彼氏は車を持っていて、突っ走ろうとするが一回エンストし、その後もグラグラ。コナーが最初に船を出す時も似たように堤防に軽くぶつかる。ラフィーナが海に飛び込み、溺れかける所をコナーが引っ張り上げる=その後の展開を示唆している。

勉強できないから寝るのか、MVのコンテを描くのかの対比が残酷だと思った。船出を飛び上がって喜ぶ兄貴は、音楽で成功する夢や、何らかの夢を諦めて、挫折を味わった人の代弁者だ。

階段の上から母親を見下ろしていたはずの兄貴が、いつのまにか母と同じ場所に座って、弟に見下ろされながら葉っぱを吸う。母はスペインに、兄貴はドイツに行けなかったまま。でも、弟に夢を託すことはできた。それぞれに人生の踏み出し方がある。そんな感情が最後の抱擁には込められている。

シングストリートの兄弟、onceの「男と女」、はじまりのうたのキーラナイトレイとアダムレヴィーンと、夢破れた人に対する目線の描き方が一貫して上手い。ロンドン行きの大きなフェリーから手を振る2人の衣装は、コナーと兄の服の配色と同じで、彼らと同様に夢を追った色んな人の姿が乗り移っているようだ。そのフェリーに追従するラストは、そういう「兄たち」を追い続ける覚悟が描かれているようにも見える。

地に足ついた切ないまとめ方が印象的だった過去二作に比べて、今作は終盤加速度的にファンタジーになっていく。ストレートな妄想なのは分かるが、前二作のようなこぢんまりとしたの方が自分好みではある。良くも悪くも最大公約数的な、多くの人に楽しんでもらえる作りだとは思う。

あとはやっぱり、初のバンドものなのだから、メンバーとの絡みはもっと欲しかった。いつも通りの流れだけで終わっているのは物足りない。

余談だが、兄貴がカセットやLP壊すとことか前作の「ダウンロードにしたら?」発言を見ると、ジョンカーニーは音楽の「ガワ」には拘らないタイプなんだろうなと思いました。84点。
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