Inagaquilala

ダゲレオタイプの女のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

ダゲレオタイプの女(2016年製作の映画)
3.9
ダゲレオタイプとは、1839年、ルイ・ジャック・マンデ・ダゲールによって発明された世界初の写真撮影法で、銀メッキをした銅板などを使うため、銀板写真とも呼ばれる。露光時間がいまのカメラと比べて長いため、モデルとなる人物は長時間同じ姿勢をとることを強いられる。

映画では、このタゲレオタイプに魅せられた元ファッションカメラマンのステファンとその助手に雇われたジャン、タゲレオタイプのモデルとなるステファンの娘であるマリーの物語が、前半は繰り広げられる。

タゲレオタイプの写真のモデルとなるため2時間近く同じ姿勢をとらされるマリー。かなりの芸術家肌のステファンの助手をつとめるうちに、彼の無慈悲な態度にジャンは反発を覚え、マリーに惹かれていく。

ステファンの妻ドゥーニーズは自殺して亡くなっていたが、彼女もタゲレオタイプのモデルとしており、その写真は銀板に定着され、永遠の命を得たとステファンは信じている。そんな父から独立していきたいと願うマリー、それを手助けしようとするジャン。

タゲレオタイプという写真を挟み、対立する父と娘、愛を育む男と女の物語として前半は進むが、黒沢清らしい不穏なカメラワークで映し出される中盤のマリーの「階段落ち」のシーンあたりから、映画は本領発揮のホラーへと流れが変わる。

そして、ここからが黒沢監督の真骨頂。フランスを舞台に、現地のキャストで、フランス語で撮られた、黒沢監督初の海外進出作品。たぶん前半はフランスの映画と言われても全く違和感がないが、後半は黒沢ホラーがうまくこの「フランス映画」に溶け込んでいく。

光と影の強調、まるで蛇のように動くカメラ、そして幻想との往来。現実からホラーへの転調はこの作品でも見事に行われている。日本国内(もう少し上映スクリーンがあってもよいのでは)よりも、海外で評価の高い作品になるにちがいない。
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