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世界のnetfilmsのレビュー・感想・評価

世界(2004年製作の映画)
3.9
 ジャ・ジャンクーの映画では経済成長を武器に激動する中国を背景に、時代の流れに取り残された中国社会の底辺を生きる人物たちの物語を切り取る。彼の作品の中でしばしば舞台役者や踊り子が描かれるのは、中国の伝統に根ざした職業だからであり、現代における急速な進化と対をなす事象として描かれる。彼の映画の中では富裕層は1人も出て来ない。主人公たちの雇い主はいつも金払いが悪い人間で、登場人物仏たちは金回りが悪い。今作の主人公は「世界公園」というテーマパークに所属するタオ(チャオ・タオ)である。黄緑色の衣装を来て、華やかに踊る姿はこの劇団の華であり、楽屋でさえも優雅に闊歩する。その佇まいはまさに大スターのものだが、その実寂しい生活を送る26歳の普通の女性である。「世界公園」というテーマパークは、世界に行かずに行った気になれる施設として作られたミニチュアのような街並みである。フランスのエッフェル塔やエジプトのピラミッド、それらが何分の1かのスケールで忠実に再現される。けれど所詮はイミテーションであり、偽物にしか過ぎない。世界は常に激動し、中国も変貌していくが、ここで働いている人たちは、監獄のような小さな世界に閉じ込められる。

 タオには公園の守衛主任であるタイシェン(チェン・タイシェン)という恋人がいるが、なかなか進まない関係性が彼女を焦らせている。真摯に一生をかけて芸事を極めんとする女性など1人も出て来ない。世界に行かずに行った気になれる「世界公園」に勤めながら、皮肉にも彼女たちはここではないどこかへと行きたいという願望を強く抱いている。一見華やかに見えたタオの生活のベールが徐々に剥がされていく中盤の描写は熾烈を極める。ようやく結ばれたかに見えたタイシェンとの関係は彼の浮気、偽造パスポートの発行という秘密で徐々に暗礁に乗り上げる。同僚のウェイは恋人ニュウの嫉妬深さに遂に我慢出来ずに別れを切り出すが、ニュウは自身の衣服を焼いて死のうとする。ようやく仲良くなったロシア人は奴隷のような生活に耐えかね、ホステスに身を落とす。可愛がっていた青年は夜の建設現場での事故で突然死に、ダンサーのヨウヨウ(シャン・ワン)と親会社の重役の不倫現場を目撃した次の日彼女は団長に昇進する。どこにも救いのない閉塞感が主人公を覆う。

 パスポートもないまま、世界のどこへでも行き来できる空間にいながら、皮肉にも彼女はあまりにも困難な現実に直面し、国を出ることを願う。タイシェンはチュンに偽造パスポートを手配し、パリへ逃すが、自分と恋人であるタオは依然としてこの「世界公園」の敷地を出ない。携帯電話の使用が男女の言いようもない距離感を作り、突如アニメで切り取られたファンタジーのような映像が現実世界をぼかしてしまう。
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