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スイス・アーミー・マンのkouのレビュー・感想・評価

スイス・アーミー・マン(2016年製作の映画)
4.5
《自分への抑圧を無くす》
自分を孤独にさせてしまっている原因は何だろうか。
無人島に漂流した男は、死体を万能ナイフのようにして生き延びていく中、自己と向き合い続ける。今作は、最高に笑えて、それでいて感動的で、人間の生き方についての哲学的でもある。変な映画であることは確かだ。でもとても愛おしくなる映画でもあるのだ。今作は僕にとって愛すべき映画となった。

無人島で遭難していたハンク(ポール・ダノ)は自殺しようとしたところに海岸に打ち上げられた死体を見つける。その死体、メニー(ダニエル・ラドクリフ)には沢山の機能が備わっていて、脱出の手助けをする。そしてハンクとメニーの間には友情が芽生えていくのだ。

例えば同じ無人島を舞台にしたキャスト・アウェイでは、主人公の話し相手はあくまで話をしないバレーボールだった。今作はどうか。喋るし、口から水は出せるし、おならで海を進むことも、口から物を勢い良く出すこともできる。こんな荒唐無稽な物語だが、ハンクはメニーを使ってなんとか無人島から人のいる所へ戻ろうとするのだ。

世間一般的に気持ち悪いとされていること、不快感を表すようなこと。僕らは嫌われないように、世間から外れないようにそれらの事を我慢してきた。自分の内面を隠して、それでどうなったかと言えば、逆に世間から孤独になっていったのではないか。気持ち悪い、そんな部分を隠すために、いつしか本当の自分ではなくなってしまった。

その常識がこの映画では決して暗く、重くなく描かれる。なぜならそれは下ネタであったり、オナラであるからだ。無人島に遭難し、社会と離れたハンクはメニーの下ネタやオナラを嫌がる。しかしそれにメニーは疑問を投げかけるのだ。そして、好きだった女性に話しかけなかったことも。ハンクはメニーと社会から切り離された空間で生き残ることで自分の抑圧された部分を解放させていく。そして、彼らがたどり着いた先、感動的なラストが待っているのだ。

それは彼らの友情でもあり、そしてハンクの成長でもあり、社会で生きていくことへの表明でもある。そしてそれは、とてもくだらない形で表明されるのだが、だからこそ感動的でもあるのだ。ラストシーン、笑いながら泣いている自分がいた。音楽、映像のセンスの良い映画だと思う。発想も含めとても奇抜な映画であるが、観たことのない種類の感動が待っている。大好きな映画だった。
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