空想映画日記

パターソンの空想映画日記のネタバレレビュー・内容・結末

パターソン(2016年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

何もない日常がすこし愛おしくなる映画

言ってしまえば、特に大きな出来事が起こるわけでもなく、淡々と日々が過ぎていくだけの映画。なのだけど、同じように見える毎日も、一日一日が少しずつ違っていて、人との出会いがある。そんな日々の小さな幸せを、アダム・ドライバー演じるパターソンと自分とを重ねることで、再確認できるというわけだ。

映画の中で特に気になったのは、パターソンとその妻ローラとの関係性だろう。二人はおそらく結婚して日が浅い、まだ新婚なのではないだろうか。
パターソンは朝早く働きに出るが、妻のローラは仕事をしている様子はない。それどころか、家のカーテンに謎の模様をペインティングしたり(目痛くなるわ)、結構な値段のギターをパターソンに買ってくれとねだったり(もっと安いギターにしなさいな)、夕飯に奇天烈なパイを作ったり(夕飯にパイ!?)。

パターソンはその一つ一つに、戸惑いや反抗の表情を見せるのだが(アダムドライバーの微細なリアクションのお芝居に注目!)、口に出すことはなく、ぐっと我慢して曖昧に笑っている。きっと、言いたいことは山ほどあるに違いない。夫婦の微妙にすれ違っていく感じが、とってもリアルに表現されてた。きっと、この甘い雰囲気は今だけで、数年後にはバチバチに喧嘩しているんだろうなぁと予想した(笑)。

だからといって、パターソンはローラのことを愛していないのかと問われると、それは違う。パターソンは心からローラを愛しているのだ。そこを表しているのが、パターソンの書く詩であったり、朝起きたときにローラにキスをする姿だったりする。

映画ではよく、お互いに不満もなく、以心伝心できて、相手の全てを全肯定するといった、いわゆる完璧な愛が描かれがちだ。だが完璧な愛はフィクションだ。作り物の世界にしか存在しない。

パターソンでは完璧な愛は描かれない。相手に不満があっても、価値観が違うことがあっても、喧嘩をしたとしても、そういったマイナス部分も全部ひっくるめて愛する、現実的な本当の愛が描かれている。
これを好ましく受け止めるか、つまらないと受け止めるかは、個々の観客次第だろう。

生きるって愛するってことなのよきっと。
愛するってことは、人間を人間として受け止めるってこと
つまり、今ここにある自分を受け入れるってことなのかもね。

あかり

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