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ラスト・タンゴのくりふのレビュー・感想・評価

ラスト・タンゴ(2015年製作の映画)
4.0
【憎しみのタンゴ】

予告編に惹かれ、『Pina』が見事だったヴェンダースが製作総指揮ならダンス・ドキュメンタリーとしても外れじゃなかろう…と行ってみた。

アルゼンチン・タンゴの全盛期を踊り抜けたタンゴ・ペア、マリアとフアン50年の激しき愛憎。フィクションとも絡めた立体的構成が鋭く、総じてパーツの不足感があまり気にならない。静かに熱かった。

マリアとフアンの青年時代、壮年時代をそれぞれ、プロのダンサーが演じ、現代混じりの当時をタンゴで再現している。これがエロティックで濃厚美味!シーンは潤沢ではないものの、要所で映画を鮮やかに浮遊させる。

特に『雨に唄えば』をみて夢中になった二人が、その想いを縦横無尽に再現する舞いが圧倒的!若きマリアを演じるアジェレンさんが光っています。…タンゴって、脚が別の生きものみたいだね。

面白いのは、演じるダンサーをマリアと実際に対峙させ語らせ合い、さらにマリア抜きでダンサーたちに、2人について語らせるという、メタ的な立体感を出しているところ。これが映画を豊かにしていますね。

結果的に、先輩二人の濃厚さがより際立ち、若手の皆さんの個性がかなり後退しても見えますが(笑)。

マリアさん、強烈。何でも、フアンおじさんは始め出演拒否したものの、現在の奥さん(かつてペアを解消させた張本人)に説得されて後から出て来たそうな。ゆえにマリア中心の構成になっていて、噴きだすフアンへの愛憎(恨みつらみ)がハンパない。

喜びでなく憎しみで踊っていた、という告白が驚き!この二人をより解剖していったらモノスゴイ映画になった気もしますが、みるにもスゴイパワーが要りそうです。

一方のフアンは、時代がそうさせた面もあるのでしょうが、典型的マチズモ男で苦笑してしまった。マリアと出会った時、「私のストラディバリウスを見つけた!」と思ったそうですが、今どき堂々と言うもんじゃないだろ(笑)。

「男らしさ」を勘違いした化石のような人物で、そんな自分にまるで疑問を持たない様子。こりゃ、憎まれるわな。ペア解消後にどう踊ったか?の事実にもびっくり。もはや倒錯的領域ではないか。

惜しいのは、そんなフアンの方により、アルゼンチン・タンゴの歴史を背負うダンサーとしての自覚を感じたので、歴史的側面からもっと、タンゴを語って、教えてほしかったことです。

85分という時間で端的にまとめられ、美しく、み易い映画でしたが、終わってみると、「男のタンゴ」からのよくも悪くも逆襲してゆく強さのバランス感覚がよりほしかった、とは思いましたね。

<2016.7.28記>
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