ちろる

ヒトラーへの285枚の葉書のちろるのレビュー・感想・評価

ヒトラーへの285枚の葉書(2016年製作の映画)
3.6
戦争で大切な息子を失う。
ハイルヒトラーと右手を上げているけれど、その手を拳に変えたくなる時もあるのに何もできない自分に腹が立ち、体制にものを申したいのに声をあげることは絶対にできない父はその心の叫びを宛てもない葉書にぶちまける。
これは、レジスタンス運動をした夫婦の実話を基にした話。
命がけで書いた葉書を町中の至る所にこっそりと置くことを繰り返す夫婦は、この時すでになにもせずに腐っていく母国に耐えられなくなってしまったのだろう。
今で言えばSNSでの拡散と似ているけど、この時代のそれはもう本当に命がけ。
ナチスドイツの体制に対してどれだけの人々が妄信的に従っていたのかは知らないけれど、心のどこかで良心がキリキリ痛んでいる人、この夫婦のように大切な子どもを失った人かこの葉書に書かれたメッセージを読めば、何がが変わる勢にはならなくても一人一人が個人レベルで「こう思っているのは私だけではない」と知れることができる。
それが重要なのだろう。
妻を演じたエマ トンプソンの絶望と不安、そしてなによりも夫への愛が地味に滲み出てくるようだった。
正義のつもりではなく、ただ何もせずにいつまで右手を掲げてハイルヒトラーと叫べばいいのかと、どうしようもなくなった夫婦の苦しみがこの作品の全てだった。
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