作品を観る前からアリエルが黒人であることだけに過剰反応するような人たちには、本作が含む多種多様の差別や分断による痛みを読み解くことはできないだろうと思います。
人種間の隔たりがテーマのひとつであることは間違いありませんが、むしろそうした側面だけで捉えようとすることはこの作品の深みを失わせてしまいます。
アニメ版の『リトル・マーメイド』に共感したゲイのカップルが作成したパロディー映像が話題を呼んだこともありましたが、本作の監督もゲイを公言しています。
そもそも原作者のアンデルセンもゲイだったそうで、根幹にはLGBTQの人々が感じていた疎外感があることは明白です。
"自分には居場所がない"と感じているすべての人の物語として、いくらでも拡大して捉えることができる余白がこの物語の魅力であり、そこをよく理解した作品になっていることがとても良かったと思います。
「あの世界の一部になりたい」と歌うハリー・ベイリーの歌声に思わず目が潤んでしまうのも、彼女が世の中の不条理を一手に引き受けながら力強く輝きを放っているからではないでしょうか。
目眩く水の世界、美しい音楽だけでも楽しい作品ですが、未来に対してとても前向きな気持ちにさせてくれるラストもよかったと思います。