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リベリアの白い血のnanaのレビュー・感想・評価

リベリアの白い血(2015年製作の映画)
3.8

ニューヨーク、夢は掴めるのか


西アフリカの国リベリア。
現地のゴム農園とニューヨークを舞台に小国の貧困と移民の現実、戦争で傷ついた男のトラウマを描いた作品。

日本人にはあまり馴染みのない国リベリアの作品を、日本人監督が制作している。

内乱が続いたリベリア
独立し、政情が安定しても人々の生活は豊かでは無い。

リベリアはラテックスの原料、ゴムの木に恵まれている。

主人公のシスコもゴム農園で働く一人。
樹木に傷をつけ、バケツに滴る樹液を採取する。
バケツを木に固定し、ストローから一滴ずつ落ちる液体をひたすら集める。
気が遠くなるような作業だが、真面目に働き家族を養っている。
世界中の一流メーカーのスニーカーはこのゴムを使っている。
それが子供達へのシスコのプライド。

職場では労働者の解雇とストライキが起こっていた。
どんなに働いても豊かにはならない。
ニューヨークに行けばたくさんのお金が貰えると誘われ、渡米するシスコだが、そこにはシスコを地獄に突き落とす、ある過去との対峙が待っていた…



渡米し、ニューヨークでタクシードライバーとして働くシスコに向けられる人種差別。
移民と言うだけで賃金も安いし、客から失礼な言葉を投げられる事もある。
喧嘩をしてはここにいる事は出来ない。
家族のためにいろいろな我慢をし、懸命に働いているのに家族のほうは厚かましくなって行く。
この辺りもちょっと切ない。
遠くで働く父さんはもう、「お金」なの?
自由になる少ない賃金の中でリベリアに電話をしているのに。 

この人は怒らない。
我慢というより諦めに見える。
家族にも環境にも。
嫌な思いをする場面での少し悲しい笑いの表情。
いろんな事を通り抜け、この様な顔をする男になったのだろう。

シスコには戦場にいた経験がある。
ニューヨークで再開した戦地で一緒だった仲間。
ニューヨークで最悪のクズになっていた。

この男に巻き込まれて行く所は悲劇としかいいようが無い。
相手が悪すぎる。
シスコをはめ、ゆすり、トラウマを刺激し移民の弱い立場につけ込み…

シスコの過去が明かされる場面で驚愕した。
戦場は人を狂わせるという事か。
この誠実な人が自らそんな事をしていたなんて。

酷な過去と悪魔に取り押さえられた今。

真面目で慎ましい序盤からは想像出来なかった展開。
救いのない悲劇の男。


そして

息を呑むラスト。

予測のつかない終わり方だった。




ヒューマンであり、後半はサスペンス。
シスコを演じたビシュップ·ブレイは、実際に以前はゴム農園の労働者で映画初出演で初主演。
悲しみを湛えた怒りや憂いの表情が素晴らしい。
この人の演技をもっと観たいと思った。

家族への愛、中間管理職の苦悩、憧れた都会の闇と、逃れられない過去。脚本が面白く、後半に進むにつれスピード感が増す。

ゴム農園の樹液がシスコの人生を絞り出した白い血と理解した。


この作品を撮影した日本人カメラマンは、現地でマラリアにかかり亡くなった。初めて認められたこの作品が彼の遺作になった。
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