小波norisuke

愚行録の小波norisukeのレビュー・感想・評価

愚行録(2017年製作の映画)
4.0
原作未読。鑑賞後、腐った生ゴミを見てしまったような、なんとも嫌な後味が残る。これぞ「イヤミス」なのだろう。それでも観たことを後悔しないのは、愚かで歪んだ自尊心の人物ばかりが登場するが、こんな人いるよなと思わせるリアリティがあること、そして、どんなに陰鬱な思いを抱える人物を演じていても尚、華のある俳優陣がキャスティングされているからだと思う。

週刊誌の記者である田中は、迷宮入りしたまま1年が過ぎようとしている一家殺人事件の真相を探るため、被害者夫婦の知人たちを取材してまわる。一方で、田中自身も問題を抱えている。妹が育児放棄の容疑で逮捕され、拘留されているのだ。

異なるエピソードが、徐々につながり、交錯していく。人間の心の奥底に潜む、野心や欲望、憎悪、侮蔑、怨恨。密やかな感情に駆り立てられて、人間は愚行を重ねる。愚行の連鎖が、人の心をさらに蝕み、いつしか悲惨な事件へと発展していく。

非常に上昇志向の高かった被害者夫婦。この人たちは本当に幸せだったのだろうか。上へ、上へと見上げて暮らすことが喜びだったのだろうか。いつか踏み台にしてきた人たちに追い越されるのではないか、いつか下に転落してしまうのではないかと、焦燥感に襲われることはなかったのか。

妻夫木聡さんは、三谷幸喜監督作品や山田洋次監督作品などで演じる、おおらかで明るいキャラクターもよくはまるが、「悪人」やこの作品のような陰のある人物を演じていても、とても魅力がある。満島ひかりさんは、むしろ陰のある役の方が多い印象だが、もちろん今回も凄味のある演技。

おそらく30前後の俳優たちが、現在と学生時代とを演じ分けるのだが、とくに臼田あさ美さんは、違和感なく18歳ぐらいを演じておられた。そして、旧姓「夏原さん」を演じた松本若菜さんが、非常に朗らかで上品でいて、鋭利に策略をめぐらしていそうな女性を体現していて、怖かった。
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