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オールド・ジョイのSPNminacoのレビュー・感想・評価

オールド・ジョイ(2006年製作の映画)
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山奥の秘湯目指して、男2人犬1匹が小さな旅。政治議論も、世知辛い現実もそこまでは届かない。現在地はわからないけど、行き着く先は見えてる。きっと、これが最後の旅になると。
「こっちの水は甘いよ」と誘われて、自分だけ楽しむのは気が引けると、妻に言い訳めいた許可を乞うマークは結構ズルい奴に思えた(よくあることだけど)。妊娠中の妻が不味そうな野菜ジュース飲んでるのに、一緒に苦い現実を飲み込もうとはしない(しなくていい)のだから。身を固めたマークと、ブラブラ宛てのないカートにも微妙な距離感がある。とりあえず相手を安心させるのに話を合わせるマーク。拠り所ない不安を紛らわすカート。お互いはあり得たかもしれない自分のようだから、ちゃんと向き合えない(ダイナーでも席を外してしまう)。温泉は近いし、犬は暖かいから大丈夫。でもこの後ろめたさ、気まずさ、無力感はなんだろう。
2人ともマッチョなタイプではないし、騒いだり喧嘩することもなく、ゆったりと旅は進む。けど温泉に浸かり、カートがマークに触れることで、これが膠着した殻を脱ぐ話らしいとわかる。旅に誘ったカートは最初からそのつもりだと思うが、マークはなかなか心を開けない。それでも男をケアするのは男の手。
親になる責任から逃げられないマークも、家庭を持たないカートも、無力さを受け入れて先に進む。もう「あり得たかもしれない」自分はいない。どちらの水も甘くない。苦い現実へ戻る頃、旅は既に「使い古した喜び」の一つ。身軽なのは犬のルーシーだけだ。
移動する車窓風景と森を歩く景色、空模様と心模様。旅は現実逃避や変化を期待させるけど、街でも森でも小鳥や小さな生き物がそこにいて、結局どこまでも地続き。予め帰る場所が決まってるし、裸の付き合いとか温泉の効能でどうにかなるもんじゃない、ってところが好き。しかし山のナメクジはデカいな!
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