パイルD3

オールド・ジョイのパイルD3のレビュー・感想・評価

オールド・ジョイ(2006年製作の映画)
3.5
「悲しみは使い古した喜びよ」
夢の中で見たというインド人女性が主人公のひとりにかけたという言葉。

では、喜びは新しい悲しみの始まりかも知れない…かも。

都会生活にやや疲れ気味のマークとカートという2人の男が、秘境のような山奥のキャンプに出掛けて、天然の温泉で“整えて“帰ってくるまでをユルく見せるロードムービー。

とにかくユルいユルい、もはや映画とプライベートムービーの中間のような仕立てになっている。

2人の人物を軸にストーリーが進むスタイルを早くも確立しているケリー・ライカート監督にとっては、これは長編第二作。

しかしデビュー作の「リバー・オブ・グラス」とは作風をかなり変えているところを見ると、これは作家としてスタイルの実験を試みているとも思える。
起承転結だの序破急だのに慣らされてきた身上としては、正直、面白いかどうかなんて完全無視したような作りとしか言いようがない。

親友同士の他愛無いセリフだけが空気のように流れ、結果ドラマとしての起伏は無い。突き抜けるような美しい映像とギターの静かなメロディが妙にしみる。
低コスト、装飾物一切なしのミニマリストと評される理由が少しわかってきた気がする。

ただ、前述のセリフのように、キラッと光る一語がどの作品にも出てくる。
冒頭で、誘われたマークが、妻に友達とキャンプに行く事の許しを乞うシーンでは、
「いつも私の許可を求めるけど、どうせ意思は変わらないじゃない」というセリフで、夫婦のくたびれた距離感もしっかり描き込むように、人物スケッチは細かい。

そして今回気づいたのは、この監督はどの作品にも動物の存在感をさりげなく放り込んでいる。
「ファースト・カウ」の牝牛、「リバー・オブ・グラス」の父親が飼っている小動物、
「ショーイング・アップ」の鳩、そして本作のキャンプについてくる犬、どれもこれもやたらと存在感を漂わせて印象に残る。

ますます、冗長さが魅力にすら感じるクセの強いライカート監督の世界に沼ってしまいそうだ。
世の中がどんどんファスト化体質に走っているだけに、この沼は心地良くもあるが。
パイルD3

パイルD3