荒野の狼

サロメの荒野の狼のレビュー・感想・評価

サロメ(1975年製作の映画)
4.0
オスカー・ワイルドの戯曲をもとに、リヒャルト・シュトラウスがオペラ化した作品。本作は、サロメを演じたテレサ・ストラータス(Teresa Stratas)の魅力から必見と紹介されてきた作品。本作はオペラを劇場で撮影したものではなく、1976年にテレビ用に制作されたものとDVDに折込のパンフレット(28ページあるが英独仏の三か国語で書かれているので、賞味7ページの内容)にはある。DVDはリージョン0(Worldwide)となっており、日本の機器で再生可能。言語はドイツ語。字幕は英語、フランス語、スペイン語、中国語で日本語はないが、英語の字幕は比較的平易で読みやすい。
「サロメ」の話は新約聖書では母親のリクエストからヨハネの首を踊りの褒美として所望する少女サロメという小さなエピソードであったが、歴史的にはそれから母親が主役となりヨハネへの叶わぬ想いからヨハネの首を欲する話になっていった。それからギュスターヴ・モローの絵画に代表される魔性の女 ファム・ファタール(Femme fatale)のイメージで、サロメが描かれるようになったが、ワイルドはサロメを少女のイメージで戯曲化している。
本作でもストラータスは可憐な少女のようなサロメを好演(1938年生まれであるから撮影時は30台後半ではあるが)。ハンス・ベイラーHans Beirerは、サロメへの偏愛から悲劇的結末を招いてしまうヘロデ王を演じるが、このオペラでは更にもうひとりサロメへの想いから自殺してしまう隊長をヴィエスワフ・オフマン Wiesław Ochmanが演じている。すなわち、叶わぬ片思い(内面ではなく外見からの恋情)から、自分をコントロールできずに悲劇的な結果に至ってしまうのは、この三人で共通。年齢、性別、身分に関係なく、恋にとらわれてしまうと、何もかも見失ってしまうのは、時代を問わず人間の悲しい性であり、同情してしまうところはある。サロメはヨカナンの斬首された唇にキスをしながら「恋の味は苦い」と言うのだが、愛した相手を独占した結果が、相手も自分も不幸にしてしまっている。
サロメの母ヘロディアスは、アストリッド・ヴァルナイ(Astrid Varnay)が演じるが、彼女が最も多く演じた役というだけあって、サロメへの嫉妬とヨカナンへの憎悪の演技は迫力がある。パンプレットによると預言者ヨカナン(ヨハネ)は本来はサロメを精神的に導いてあげるべきところを失敗したとしているのは興味深いが、ベルント・ヴァイクル(Bernd Weikl)が演じている。指揮はカール・ベーム、演奏はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団。演出はゲッツ・フリードリヒ(Götz Friedrich)。
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