YosukeIdo

彼らが本気で編むときは、のYosukeIdoのレビュー・感想・評価

彼らが本気で編むときは、(2017年製作の映画)
4.3
感想を以下ブログ「シネフィル倶楽部」にて掲載中。

■彼らが本気で編むときは、
http://ameblo.jp/cinefil-club/entry-12250957826.html

生田斗真に"主演女優賞"をあげたい。心の底から。

しっとりと柔らかい感動を得られる映画。

まだ今年は始まったばかりですが、個人的に一年の最後に考える映画ランキングには確実に入ると思われる一作。

『彼らが本気で編むときは、』
(2017)

2017年序盤のこの豊作ぶりはいったい…。

洋画も邦画も良い作品が多い!

最近は寝ても起きても『LA LA LAND』一色だった自分が、さくっと横から刺された感じです。

不意打ちです、不意打ち。


日本版『チョコレートドーナツ』というと少し語弊があるかもしれませんが、色々省いてこの映画を紹介するならそれが一番伝わりやすいかもしれません。


ゲイカップルが血の繋がらないダウン症の少年と家族として繋がっていく、という物語で胸を締め付けられる作品です。

■『チョコレートドーナツ』あらすじ
1979年カリフォルニア、歌手を目指しているショーダンサーのルディ(アラン・カミング)と弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)はゲイカップル。
母親に見捨てられたダウン症の少年マルコ(アイザック・レイヴァ)と出会った二人は彼を保護し、一緒に暮らすうちに家族のような愛情が芽生えていく。
しかし、ルディとポールがゲイカップルだということで法律と世間の偏見に阻まれ、マルコと引き離されてしまう。


設定は近い点もあったりしますが、作品のトーンは異なります。
(ちなみに『チョコレートドーナツ』、すごくお薦めなので、機会があればご覧になってみてください♪)

『チョコレートドーナツ』は裁判のシーンがあるなど含め非常にアメリカ的なのに対し、本作はとても日本的。


ひとつの家庭があって、毎日学校に行く人と会社に行く人とご飯を作る人がいて、家でくつろぐ人と家事をする人がいて、そして団欒がある。

見方によってはただそれだけの事が映し出される本作。

「なんだフツーじゃないか」
「特に他の映画と変わらないじゃないか」

この映画にそんな感想を持つ人が増えたらいいなぁなんて、エンドロールが終わった時に思いました。


そんな風に言うと重たい印象になってしまいますが、本作の監督は荻上直子さん!

ユーモアに溢れた作品にもなっていますので、とってもオススメなんです(^ ^)
それではいつも通りあらすじから参りましょう!

切なくも可笑しい、"女"と"男"と"おとな子供"のおはなし。

はじまりはじまり~


「ほんと、いつも始まるの遅くて
やんなっちゃう」


――――――――――――――
■『彼らが本気で編むときは、』あらすじ
――――――――――――――
小学5年生のトモ(柿原りんか)は、荒れ放題の部屋で母ヒロミ(ミムラ)と二人暮らし。
ある日、ヒロミが男を追って姿を消す。

ひとりきりになったトモは、叔父であるマキオ(桐谷健太)の家に向かう。
母の家出は初めてではない。

ただ以前と違うのは、マキオはリンコ(生田斗真)という美しい恋人と一緒に暮らしていた。
それはトモが初めて出会う、トランスジェンダーの女性だった。

(映画公式サイトより)



――――――――――――――
■監督が本気で撮るときは、
――――――――――――――
荻上直子という監督。


過去には『かもめ食堂』『めがね』などのヒット作を生み出しています。
(『かもめ食堂』面白いですよねぇ!)

この監督の独特の色だなぁと思うのが、「ユーモア」の感覚。

この人が脚本で紡ぐ言葉を使った「ユーモア」は、結構鋭い言葉を使ったものもあるんですが、何故かその言葉の素材の味はそのままに、とても素直に楽しめるんです。

例えばそれはセリフのテキストだけを切り出すと、チ○コやサイズトークといった単語やテーマなど、結構ストレートな部分があります。

でもそれが演者の言い方や柔らかい照明、間合いなどが相まって、全くイヤラしくなく且つ身近に感じるんです。

まるで生春巻きの薄皮のような台詞と演出。

中身は丸見えなんだけど、それがないと肝心の中身がばらっばらになって纏まらない、そんな感じ。

中身は丸見えだから、リアルな部分やどぎつさは隠れてない。

でもそれをユーモアに包んで食べてみると素材の味が活きていて、食感も風味もそのままにすんなりと味わう(受け入れる、楽しむ)事ができる。

そんな言葉選びと表現の仕方、それが脚本と監督を兼ねる荻上直子さんの魅力のひとつかなと個人的には思います。


この人の映画の中で流れる「時間」というのはゆるやかです。

ここでいう「時間」は「テンポ」とは少し違います。

「テンポ」はカット割や脚本、演出によって生まれるものです。

それに対して「時間」は本当にスクリーンの向こう側、物語の中や劇中のキャラクターの後ろに流れるものです。

普通は、速いと感じるところがあって、ちょっとゆるやかになってという風に、映画の中の時間の速さが変わります。

それが、ゆるやかで一定。

正直それは監督がどこまで意図したものなのか、彼女の演出の副産物なのか、正解は分かりません。

でも、数ある作品の中でも特徴的だなと思うポイントです。



――――――――――――――
■斗真が本気で演るときは、
――――――――――――――
ジャニーズのグループ結成枠から漏れた彼。

「演技」という枠を第一線で切り拓くパイオニアですね。

どんどん作品に出演して、キャリアを築いて行って欲しいなと思います♪( ´▽`)

今回は彼が第一声を発した瞬間、この映画の評価────この後映画を最後まで観るモチベーション────が決まるなと思っていました。

彼が最初に出てきて「おかえり」と言った瞬間、「あ、勝ったコレ」と思いました。

何に勝ったのかは分かりませんが、とにかく良い映画を観に来れたと確信しました。


今作での彼の演技について、一番素晴らしいのは、生田斗真演じるリンコさんの「空気感」。

それを詳らかに書くのは野暮なので、是非映画をご覧になってその目で確かめて頂ければと思います。


彼のみならず、本作はその他のキャストも魅力的です。


・桐谷健太
「とっても肩の力の抜けた人」

それが桐谷健太が演じるマキオというキャラクターです。

彼の名をちゃんと認識した当時は、こんな役を彼が演じるとは思わなかったです。

阿部寛が、『青い鳥』で普段の彼や彼が演る役からすると斜め上に位置するキャラクターを演じたのを見た時に感じた感覚を思い出しました。

役者がパブリックイメージと大きく異なる役を演る作品。
そういうのは作品の内容云々を置いておいて、一見の価値があると思っています。

桐谷健太も本当に役者なんだなぁと感じることができる、それも本作の魅力♪



・柿原りんか
本作の主役ですね、ある意味。

彼女が初めてリンコさんと会って「はじめまして」と言われた時の反応は、、、

「はぁ…」

何をどう言っていいのか、どうしたらいいのか、全くもってその人に対して自分の立ち位置が掴めないというリアクションをします。

それがとっても上手なんです。
説得力がある。

上手すぎて怖いです(笑)

>また天才子役!芦田愛菜と同事務所12歳柿原りんか



・ミムラ
これはね、びっくりしました。

最後の最後までミムラって気が付かなかった。

しばらく休業されていたそうで、今回久しぶりのスクリーン復帰。
ダメな母親役です。

その「ダメ」をミムラが見事に体現しています。



・田中美佐子
本作は色んな母性の形が登場します。

戸籍上の男性が抱える母性。
弱く不器用な母性。
強く守る母性。

田中美佐子が体現するのが、強く守る母性。

彼女の役柄は、リンコのお母さん。

性同一性障害の我が子を素敵な人に育てた人。

初対面の小学生のトモにもキッパリと言い放ちます。

「トモちゃんが子供だからといって、あなたがリンコを傷つけたりしたら、私容赦しないからね」と。

このキャラクターがさっぱりしてて気持ちいいんです(笑)



――――――――――――――
■ご飯が本気で美味しそうなときは、
――――――――――――――
荻上直子監督のもうひとつの────そして最大の────特徴として「ご飯」の描き方があります。

もうね、どれも本当美味しそう…!


フードコーディネーターの飯島奈美さんという方が荻上監督の常連で、必ずタッグを組んでいます。

飯島さんは他にも↓などの作品で参加しています。

『深夜食堂』
『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』
『南極料理人』
『舟を編む』
『海街diary』
『ごちそうさん』

どれも見事に「ご飯」が重要な要素になっている作品ばかりです。

食への共感はそのまま物語や登場人物への共感に繋がります。

「同じ釜の飯を食う」なんて表現がありますが、ご飯で映画と観客は繋がる───映画に出てくる食卓を仮想的に共にする事で物語に参加する───な~んて拡大解釈をしています。

飯島奈美さん


――――――――――――――
■あとがき
――――――――――――――
本作のイメージソングになっているゴスペラーズの「True Colors」。

これはシンディ・ローパーの名曲のカバーですね。

今回のゴスペラーズのアレンジも、歌詞含めた曲のチョイスも映画のテーマに寄り添っていてとっても素敵な楽曲です♪

♪♪True Colors / Cyndi Lauper

※ゴスペラーズverは予告編の中で聴くことができます。

不意打ちされても、やっぱり本命は『LA LA LAND』ですが(笑)

本作を初日に観たんですが、『LA LA LAND』の観賞にかまけて記事のアップが遅くなってしまいました。

この映画は、「惚れた映画(LA LA LAND)を皆に薦めたい」という熱狂の中にいながらも、絶対にコレも薦めたい!と思える映画でした。


トランスジェンダーというテーマを結構正面から描き切った本作。

リンコの幼年期、青年期の悩みや葛藤や苦しみみたいなものを余すところなく、逃げずに描いています。

性というテーマを語る際、時に「マイノリティー」「マジョリティー」といった言葉が用いられることがあります。

でも今のセクシャリティーの割合を調べてみると、実はそんな表現当てはまらないんじゃなかろうか、という風に思ったりもします。

春の大作揃いの中で、興業的に目立った作品ではないですが、とにかく万人に観てもらいたい!と思った作品です♪
YosukeIdo

YosukeIdo