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エル ELLEのkouのレビュー・感想・評価

エル ELLE(2016年製作の映画)
4.5
《人間の多面性》
「スターシップ・トゥルーパーズ」、「氷の微笑」などで知られる現代の巨匠、ポール・バーホーベンの監督作。とても複雑な主人公ミシェルをイザベル・ユペールが演じる。一元的に語ることの出来ない、女性を描いた作品。人間の業のようなものを、とても意地悪に、かつ平等に描いている作品だと思う。

ゲーム会社の社長を務めるミシェル、彼女が覆面の男から襲われるところから始まる。しかし、襲われた彼女の行動は他の作品と違う。掃除をし、風呂に入り、食事を頼む。そして何もなかったかのように息子と食事をするのだ。

レイプされた女性の典型にオチないような毅然とした態度、それはステレオタイプな被害者の姿ではなく、とても強く見える。しかしそれを強要するような描き方では決して無い。そこに一面的でない人物描写があるのだ。観ている側も、彼女に共感する部分もあれば、違う部分もあるだろう。それは現実の人間と同じように複雑な多面性を持ち、それだからこそ映画の中の人物が息づくのだ。

人間は多面性を持つ。ある人の前の顔と、別の人の前では違うように、この映画では決してシンプルに、単純化しない。観ている側は彼女の行動に驚かされるし、行き先のわからない部分に、確かなリアリティがあるのだ。

この主人公がある意味で強くもあり、恐ろしくもあり、弱さやエモーショナルが観られ、それでいて何よりも魅力的である。彼女の存在感、それは何よりもイザベル・ユペールの存在感であるだろう。本当に素晴らしかったし、彼女に魅力を感じない人はいないだろう。見終わってから、思い出すのはやはり彼女だ。それほどまでにとてもエネルギーがあり、そして登場人物の存在感と息づきを感じられる作品と言える。ポール・バーホーベン監督の新たな傑作だと思う。素晴らしかった。
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