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エル ELLEのpikaのレビュー・感想・評価

エル ELLE(2016年製作の映画)
4.5
むちゃくちゃ面白い!大傑作!
なんて掴み所のない映画なのだろうか、全く整理ができないし何て形容したらいいのか見当も付かない感動!
ヴァーホーベン先生の変わらぬ一貫した姿勢に泣き、これぞ映画だ、映画を見た!という満ち足りた味わいに感極まる。

ブニュエル「黄金時代」じゃないけどセックスと排泄を同列に扱うところなど、人間を特別な存在にせず他の生物となんら変わらぬレベルにまで分解する視点は健在で、加害者か被害者か、正しいか間違いか、愛か欲か、男か女か、世に溢れる相反するものを絡ませ合い混濁し、極端にあるものが混在する感情を映画の中にグチャグチャにぶつけてしまう完成度は圧巻!
それでいて芯の部分はド頭からラストまで全くブレてないドラマ構成が見事!

性欲を掻き立てる情欲や歪んだ捌け口、血の繋がりや自己肯定など、主人公イザベル・ユペールの視線で垣間見る世界観を娯楽へと昇華しながら欲望と憎悪を同時に画面内に収めてしまう演出の凄さ。
他人の心理や感情を本人と同等に理解することなど不可能なわけで、他者の言動は一括りにできるものではないと、見ているこちらの中にある固定された価値観と倫理観を揺さぶりまくる。

男性女性の尊卑云々ではなく、この世の中でここまでしてようやく平等に立てると言わんばかりな視点が心地よく、最終的に男女という壁すら取っ払われ「個」へと分解し、人を身勝手に群として分別することの愚かさが身に染みる。
「自分さえ良ければ良い」というのはある意味至言で、損得で生きていることを自覚したくない人は大勢いるけれども、一見他者に対して硬質的な主人公の言動は過去の経験から理解しやすいし、身勝手に見える周りの人物たちへの許容がカタルシスになっていて面白い。

事態が収束した後のエンディングで人物間の感情が変化している描写が上手すぎて、形容し辛かった以前の感情がここにきて理解できるようになっている。
結局地味ながらにクソなのはハゲで、怖いのは隣の奥さんなのかもとか。
この映画の魅力はまだまだ奥深く、一度見ただけじゃ上澄みすらすくえてない。見ていくたびに見え方が変化していくようなスルメ映画だと思うのでまた見たい。
フォローしてるユーザーさん達のレビューの質の高さに痺れまくりました。ホント凄いっす。
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