明石です

ボディ・バッグスの明石ですのレビュー・感想・評価

ボディ・バッグス(1993年製作の映画)
4.8
ジョン・カーペンターとトビー・フーパーという最強のふたりが競作した全3話のオムニバスホラー。TV映画として製作されたのに、海外ではBlu-ray化までされているとのことで、輸入版を入手して鑑賞。驚くほど良作ぞろいの、宝箱みたいなオムニバス作品でした。

映画の構成からして既にアイデアに溢れていて、検死官らしき白衣の男が、解剖室に集められた死体袋に触れながら、その死体がどうやってここに来たのか(=なぜ死んだのか)を、1話ごとに説明していくという粋なオープニング。しかもその検死官役を演じるのはカーペンター本人ときた…!プロの音楽家顔負けの音楽を作り、脚本家不要の良シナリオを書き上げ、役者以上の演技を見せるカーペンター氏、多彩すぎない?

1話目:『The Gas Station』/ジョン・カーペンター
ガソリンスタンドに勤め始めた女性が、勤務初日に経験する狂気の一夜。他2作に比べると、シンプルな設定とそこそこに驚かさせる種明かし(まさかあの男が犯人だったとは…)と、比較的オーソドックスなスリラー映画ですが、要所要所で流れる、恐怖への期待感を煽るあのシンセサイザーのBGMが、カーペンターの音楽だ!!とボルテージを上げてくれる。焦点の合ってないカメラで向こうからやってくる殺人鬼をぼんやり映したりする手法はハロウィン以来の十八番ですね。

ただストーリーの構成としてはやや突貫工事の力仕事な感があり(直接的な言い方をすれば超王道)、『ゼイリブ』や『透明人間』『マウスオブマッドネス』の間に作られた、脂の乗りまくってる時期のカーペンター作品と考えるとややパンチが弱い。でも水先案内人として各話の合間に登場し大活躍するカーペンター本人の演技が、物語の粗さを忘れさせてくれるので◎笑。

第2話:『Hair』/ジョン・カーペンター
薄毛へのコンプレックスをこじらせ、妻に逃げられた男が、たった24時間で髪が生えるという謎の薬に手を出すと、なんとフサフサヘアーが帰ってきた!ところがその薬には恐ろしい秘密が隠されていて、、直球のスリラーだった1作目から一点、トワイライトゾーンみたいなフシギ話に。この展開から何がどう転んだら「死体袋」行きになるんだ、と思って見てたら、、なんと!!『遊星からの物体X』を思わせるミステリーチックなホラー展開は、私的には『ハロウィン』風の1作目よりずっとカーペンターらしさを感じる。こういう変化球のシナリオこそこの人の映画の醍醐味だと思う。

第3話:『Eye』/トビー・フーパー
交通事故で片目を失った野球選手が、選手生命を懸けて眼球移植手術を受けると、それ以来謎の幻覚を見るようになるお話。殺人鬼の目を移植して狂気に目覚めるという設定は『フランケンシュタイン』へのオマージュのような気がするのは私だけ…?フーパーは初期作品『ファンハウス』でも、フランケンの被り物させた殺人鬼に大暴れさせてたしね。そして移植手術中の眼球を(ストーリー上必要ないのに!笑)ゆっくりと寄っていくショットでドアップに見せたりと、この監督らしい悪趣味なこだわりが随所に散りばめられている。

それから連続殺人鬼の怨念に聖書で対抗するという、科学的には筋の通らない黒魔術的な行動原理は、フーパーの映画ではおなじみなのだけど笑、本作ではそれが意外と綺麗にまとまってて、しかもラストでは刃物を〇〇に△△という、見事に救いのない良シナリオ。これ1本でも長編映画を作れそうなアイデアで、なおかつ名優が揃ってる(『スターウォーズ』のルーク・スカイウォーカーとか)のに、短編のTV映画だけでお披露目とは、大盤振る舞いだなあ、、角膜移植をしたら幽霊が見えるようになる話の香港ホラー『THE EYE』はこの作品をモデルにしてたりするのかな、とも思った。

全編通して、TV映画なのにキャスティングが超豪華でした。ガソリンスタンドのお客さん役にウェス・クレイヴン、育毛相談所のミニスカナース役にロックミュージシャンのデビー・ハリー。一瞬だけ映る美容師の役に『ジュラシックパーク』のローラ・ダーン、眼球移植手術を担当する外科医役にロジャー・コーマン(!)、ついでに言えば、ロッカーから飛び出してくる死体役にサムライミ笑。いずれも本当に数分とか数秒しか映らないチョイ役というのが凄い(ローラ・ダーンとサムライミに至ってはほとんどエキストラだし笑)。監督した2人の人望の厚さが垣間見えますね。

『世にも奇妙な物語』でいうタモリ的ポジションの水先案内人として各話の合間に出てくるカーペンター演じる解剖医らしき男が、実は、彼自身も死体だったという、物語の外にも綺麗なオチがついてるという見事な入れ子構造。それからフーパー作の3本目の幕引き直後に登場し「片目でもアンパイアくらいは務まっただろうに」と皮肉たっぷりに嘯くところも大好き(本物の検死官役がよく見るとフーパー本人だったりする)。本当、96分とは思えないほど濃い、アイデア溢れる素敵な映画でした。苦労して手に入れてよかった、、
明石です

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