賽の河原

マンチェスター・バイ・ザ・シーの賽の河原のレビュー・感想・評価

3.7
村上春樹は自らの仕事を「文化的雪かき」と称してますね。今年も残念ではありましたけど、村上春樹自身数少ない交流ある作家の1人であるカズオ・イシグロが受賞して良かったんじゃないですか。実際いい小説書いてますしね。
この映画の序盤、主人公は執拗に雪かきをしているんですが、誰がどう見てもその姿は仏教的に言えばカルマ、 キリスト教的に見ると贖罪にしか見えない。彼の部屋も魂の牢獄としか言いようのない部屋だし、そういう映画的な仕掛けを観るのは楽しみですね。
というわけで、いわば「過去のやらかしによって人間的に死んでしまった人」のお話ですよね。
やらかしの手前からもう全ての幸せなシーンが重低音的に不吉っていう。そしてやらかし自体も「ありそう...」というか決定的なやらかしとは言えないが気づいた時には不可逆的で圧倒的なやらかしになってしまっているという救いのなさね。
通常映画ってのは2時間という尺の中でトラウマに絶望し、再生してカタルシスを演出するわけですが、この映画は「お前ら2時間程度で乗り越えられるような痛みなんてトラウマのうちにも入らねーんだよカス!」と突き放してくる分、重さとしては2tくらいある映画でした。
色々登場人物のキャラクターとか敢えて語らない空白部分とかバランス悪いところもあるんですけどね。特に、取り調べのあと自殺を試みる主人公がどのように今のレベルまで回復したのか?っていう部分とか奥さんとの離婚のくだりとかがないのは致命的欠落にも感じましたね。それでも映画館で観る分にはなかなか面白かったですね。勿論退屈だと言われれば退屈かも知れないんですけど、とにかく主人公が気持ちを吐露しないし表に出さない。その分感情が出てきた時の破壊力は高いなと。温度の低いコメディ感も嫌いじゃないですし、血縁でない絆とは的な重みも現代的でいいじゃないですか。
アカデミー賞候補作品は結構観ましたけど、ムーンライトは悪い言い方をすれば退屈過ぎだし、メル・ギブソンは嫌われすぎだし、LIONはそらまあそのテーマならそこそこ面白いだろうけどなんだか惜しいし、本作は重すぎなんで消去法的にラ・ラ・ランドが一番相応しかったんじゃないかなあ。
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