よっくん

マンチェスター・バイ・ザ・シーのよっくんのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

リーの酒の飲み方(酒を飲んでバーで喧嘩する)は、子供達を死なせてしまった自分を罰しているんだと気づく。子供達が火事で焼死して警察の取り調べが終わった後、警官の拳銃を奪って自殺しようとしたところで彼の時は止まっているのだ。
誰にも心を開かず、終わりのないトイレの詰まりや配管を直す仕事をし続けるのも、決して直らない彼自身の壊れた心を直し続ける作業とリンクする。
別れた元妻に再会し、お互いの壊れた心を認め合い愛してると言われた時、リーは「それだけでも救われた気がする」と言った。その晩またバーで飲んで殴られて自分を罰した。彼は救われたい、乗り越えたいのではなく子供達の記憶と悲しみと共に自分を罰しながら生きていきたいのだ。
「どうしても乗り越えられないんだ」と吐露して甥と泣きながら抱き合ったとき、実はリーもパトリックも少し乗り越えられたんじゃないかと思う。
船でパトリックと共に笑うことができた。パトリックの来た時用の部屋を用意することができた。パトリックが大学に進学する時まで将来をイメージすることができた。ラスト、バウンドするボールを二人でキャッチボールしながら、下手くそだなと言いあうのはリーの不器用な生き様とこれからのほんの少しだけ明るい未来を象徴していた。
決して癒えない過去の悲しみと向き合い続ける生き方もある。リーがパトリックの後見人となりぶつかり合うことで、ほんの少しだけ未来を見れた。過去を乗り越えることはできない(しない)という生き方を選択しながらも、未来を考えることもできるようになった。これらのことを自分の遺言で仕掛けた兄のジョーが、天国でほんの少し微笑んでいるような気がする。
リーの抱える悲しみは美しく、そしてあまりにも重い。悲しみを抱えて生き、死ぬ間際に、彼は初めて救われるのだろう。マンチェスターの印象的な海と共に、とても美しい映画だった。
よっくん

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