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菊とギロチンのKUBOのレビュー・感想・評価

菊とギロチン(2016年製作の映画)
4.0
189分、たいへん見応えのある作品だった。

舞台は大正時代。共産主義革命を標榜する実在する「ギロチン社」の若者たちと、当時は実際に巡業していた「女相撲」の女性たちがクロスする群像劇。

まず、女相撲なんて興行があったっていうこと自体、よく知らなかった。昭和30年頃になくなってしまったらしい。

女相撲に集まる女性たちは、それぞれ人には言えない事情を抱えた弱者たちだ。その女性たちを官憲は公序良俗を乱すものとして厳しく取り締まる。

時代は関東大震災直後の大不況の中。この震災直後の朝鮮人虐殺事件って知ってました? 地震後に起こった火事を朝鮮人が火を付けたとして、数百人〜数千人の朝鮮人が殺されたという。

その虐殺に加担した元兵士たちは「シベリア出兵」からの帰還兵。日露戦争じゃなくて、第二次世界大戦じゃなくて、その間。ロシア革命でソビエト連邦が誕生した後の「シベリア出兵」なんて知らなかった人多くない? 

そしてそのソ連誕生後の共産主義に憧れ、革命を標榜するアナーキーグループの「ギロチン社」。東出昌大演じる中濱鐵をはじめ、ギロチン社のメンバーは実在の人物だ。

理想は高く、口では大きいことを言うが、何一つ達成することのできない若者たち。見ていてかなり恥ずかしい奴らだが、当時の世の中を憂い、当時の政治をなんとかしようと行動する若者たちは、どんなに世の中に、政治に不満があっても、声を上げることを諦めてしまってたり、権力に同調することで自身をごまかしている今の若者たちより、どれだけ人間らしいことか。

暴力を振るう夫から逃げてきた女性、朝鮮人だということを隠して暮らす女性。殴られても、踏みつけられても、立ち上がる彼女たちは世の中に虐げられた者たちの象徴だ。

「差別のない世界で自由に生きたい」

その時代の中であがき苦しむ男たちと女たちが出会った時に起こる、差別が蔓延する社会との、官憲との戦い。むき出しの男女の叫びは、スクリーンから汗や匂いを感じられそうな熱量だ。

原作もののメジャー作品でも安定したクウォリティーの作品を次々と発表している瀬々監督だが、本作では本当に撮りたかったんだろうなぁっていう監督の意欲やこだわりが随所に感じられた。

さあ、コロナで『糸』の公開はいつになるのでしょう? 早く映画館よ、戻ってこい! 



*東出昌大くん、本作での口だけの革命家役、なかなか合ってたけど、他の同志が肺病などを患う中、東出は梅毒で膀胱痛ってところが、またまた気に入った(^^)。
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