pika

田園に死すのpikaのレビュー・感想・評価

田園に死す(1974年製作の映画)
4.5
これは凄い。脳に刻印されるような強烈なショットの連続。最高かよ。一秒前は記憶の中にしか存在しない過去であり、現実と幻想は紙一重と言わんばかりな奇抜で不可思議な過去の幻想。ファンタジックなノスタルジーや「8 1/2」的な自伝性、空気女に宿らせるエロティシズムにフェリーニを想起し、異次元空間のような岩山やカラーのフィルターにはアラバールを思い起こす。戦争により狂気を映画にぶつけたアラバールに対してこの映画の子殺しと親殺しは似て非なるリアルが映されている。社会という大枠での無残さと個の狭小世界での苦しみみたいなものが。
記憶の妄想と改竄を羅列したとりとめのなさをギュッとまとめるメタ展開が絶妙で素晴らしい。

人間の感じ得る真理の基礎となる時と空間という概念を用いて人生を時計に表象したのだろうか、二人で一つの柱時計、個々の持つ腕時計。
自分自身と将棋を指すシークエンスの凄さ。アルバムを眺めるように日常の日々が縮図として現れる。強烈で素晴らしい。
川のシーンで雛飾りが流れてくるところ泣く。

線路を歩くシーンはロシア映画のような退廃さと素っ気なさで岩山も日本とは思えない異次元的な異彩を放ち、夜の東京も別の世界のようにアンリアルであるのにラストショットだけは何十年経っても今現在そのもののような身近なライブ感がある。ロケーションの良さとフレーミングの上手さが、現実が幻想に変わっていくという映画のトーンに沿いつつテーマを昇華していて素晴らしい。
評論家と酒を飲むショットもモノクロを活かした魅力に満ちているし、カラーフィルターをかけたショットも全て視覚的な刺激に直結していて最高。
音楽がめちゃくちゃ良い。画面の陰鬱さを音楽で飾り立てている。

入れ子構造なのもそうだしショットの作り込みとかイメージの羅列とか、映画である必要性を最大限に活かしている。エンディングのメタ演出もドヤ感は一切なく必然とすら感じられるほど盛り上げられている。カッコいい。
詩人で劇団主催者でその他にも色々と成した凄い人だという寺山修司のことは全く知らなかったけど、言わばある意味で門外漢であるのにこんなにも映画でなければならないというものを映画にしてしまったってのはめちゃくちゃ凄い。圧巻。
寺山修司の他の作品は何も見てないけど1作見ただけでも多方向に手を出しつつそれぞれに真摯に向き合う姿勢と妥協なき芸術性ゆえ名が残っているんだなと感じた。ちょっと手を出したろってんじゃここまでのものはできないと思う。凄すぎる。傑作!!
pika

pika