たつなみ

淵に立つのたつなみのレビュー・感想・評価

淵に立つ(2016年製作の映画)
5.0
何て物語を考えるんだ…。
こんなに残酷で、恐ろしくて、辛い作品を初めて観た。
全編息が詰まる位の緊迫感の連続。
「もう勘弁してください…」と常に思いながらも物語に引き込まれてゆく。
不穏で先が読めない展開、見事な映画的演出、俳優陣の素晴らしいアンサンブルと、映画作品として全く非の打ち所がない。

『よこがお』でも感じたけど、深田晃司監督は人間同士のコミュニケーションというものがいかに不安定な”まやかし“であるかを描きたいのだと思う。
本作は『それはたとえ家族であっても同じ』という容赦無さなので、余計に残酷でグロテスクに思えて来る。

冒頭で『子蜘蛛に食べられる母蜘蛛』の話が出てきたり、八坂の息子が現れたりと、『罪を犯すことの後ろめたさと、その呪縛』っていう視点も加えられているので、余計に観終わった後にゲンナリしてしまった。

八坂役の浅野忠信の『内に秘めた凶暴さ』が見え隠れする演技は本当にハラハラする。
河原で彼が放つセリフは本当に背筋が凍る思いがした。
古舘寛治の何を考えてるか分からないダメ亭主っぷりも見事。
そしてやはり本作でも筒井真理子の存在感は凄いの一言に尽きる。
彼女が演じる章江は、善良で押しに弱い性格であるが為に八坂につけ込まれ、敬虔なプロテスタントであるが為に最後まで自分の犯した“罪“に苛まれる。
全編を通じて揺れ動く章江の心の機微が痛い程伝わって来た。
この作品の後、深田監督が彼女の主演作(『よこがお』)を撮りたくなった理由が良く分かった。

八坂というミステリアスな男が鈴岡家を崩壊させる中心点となるばかりで無く、第二幕では彼の存在が”マクガフィン“となって全ての登場人物を翻弄してゆく。
この物語構成も本当に素晴らしい。
緊張感のある場面でなぜか笑ってしまう様なヘンな演出があったり(”野外活動”とか…)するところも余計に物語を奇妙なものにしている。

二度と観たくない鬱映画だけど本当に凄い作品。
深田晃司監督作品は今後もチェックしたいと思う。