Inagaquilala

最後の追跡のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

最後の追跡(2016年製作の映画)
4.1
Netflixのオリジナル作品でありながら、今年度のアカデミー賞に作品賞他4部門でノミネートされている作品。もしこの作品がアカデミー賞で作品賞など獲ったら画期的なことになるにちがいない。

日本では、残念ながら劇場での公開はなく、Netflixで昨秋から配信されているのだが、さすがにアカデミー賞をはじめ、他の賞レースでも高い評価を得ているだけあってなかなかの傑作だ。

舞台はたぶんサブプライム破綻後のテキサス、銀行強盗を繰り返す兄弟と彼らを追う退職間近のテキサス・レンジャーの話なのだが、登場人物の背後にしっかりと時代背景や社会環境が映し出されており、かなり骨太なクライムドラマとなっている。

それだけでなく監督のデヴィッド・マッケンジーは、変わらぬテキサスの美しい風景を見事な色彩設計で織り込んでおり、単なるクライムドラマからヒューマンドラマへと作品を昇華させている。とくに冒頭のカメラが広範囲にパンする場面やラストの映像はかなり印象的だ。

物語は、タナーとトビーのハワード兄弟が死んだ母親が残した土地が銀行から差し押さえられそうになっているため、歯には歯を目には目をで、銀行から盗んだ金で返済に充て、伝来の土地を守ろうとしている。兄は刑務所から出てきたばかりだが、弟が綿密に考えたこの「返済計画」をバディを組んで遂行する。

しかし、少し欲を出したところで歯車が狂い、彼らは破滅の道に踏み出すことになってしまう。そして、彼らを追う年老いたレンジャーのマーカスにもまたいわく因縁があり、最後に交わされるこのマーカスと弟トビーとの会話はなかなか深いものを感じさせる。

つづめて言えば、テキサスを舞台にした銀行強盗の物語なのだが、登場人物それぞれが背負うバックストーリーや何気ない風景や看板を写し込む映像が秀逸で、かなり観ごたえある作品を生み出している。

Netflixの作品ということで、わりと低予算でつくられたということだが、チープな感じはまるでなく、本格的なヒューマンドラマとなっている。

ドゥニ・ヴィルヌーブが監督した「ボーダーライン」で脚本を担当したテイラー・シェリダンがこの素晴らしい脚本も手がけている。
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