CHEBUNBUN

アメリカン・ハニーのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

アメリカン・ハニー(2016年製作の映画)
4.3
【カンヌを3度制した女性監督が送る「ワンピース」】
アンドレア・アーノルドという監督をご存じだろうか?
日本では、「フィッシュ・タンク」ぐらいしか紹介されていないイギリス出身の女性監督です。日本でこそ無名に近いものの、彼女のキャリアは凄まじく、「Wasp」でアカデミー賞短編実写映画賞を受賞。また4本長編映画を製作しているのだが、そのうち3本はカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞している。今回紹介するのは、昨年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した「アメリカン・ハニー(AMERICAN HONEY)」。「ムーンライト」等で近年、注目されているA24製作ということもあり期待度MAXで観ました。

☆「アメリカン・ハニー」あらすじ
ネグレクトぎみな家庭で育つスターは、ある日スーパーで見かけたイケメンに一目惚れする。彼に導かれるように家出したスターは、彼の所属する雑誌の訪問販売集団と共にアメリカ横断の冒険へと出る...

☆友情・努力・勝利の傑作!
「フィッシュ・タンク」で、閉ざされた世界を描いたアンドレア・アーノルド監督は今回、開かれた世界を舞台に少女の成長を描く。予告編でも分かる通り、あまりにも美しい陽光と大地によるコントラスト、そしてそれを盛り上げるドープな音楽で観る者を魅了する。しかし、本作はそれだけではなく、「フィッシュ・タンク」からパワーアップした少女の熱き成長物語を2時間40分という長い時間を掛けて濃密に描き出している。

経済学に、「貧困から脱出する方法に『移動』がある」という理論がある。少女は、現在の凄惨な家庭を抜け出したい一心で家出をし、移動式雑誌訪問販売グループに同行する。彼女の最初の目的は「移動」なので、グループがチャラいながらも必死に雑誌を売っていることに興味を示さないし、嫌悪感を示す。そして、ボスとの予定に遅れたり、営業先で客と喧嘩をしてしまう。

そこからジャンプ漫画、いやワンピースのように熱い、友情・努力・勝利のドラマが展開する。ボスがスターに、「やる気あんの?」「アタイらは、マジでビジネスしてるの?わかる?MAKE THE MONEYなんだ!」と叱咤。現実をしったスターは、イケメン君や周りを観察し、コミュニケーション技術、営業スキルを磨いていく。雑誌なんかそう簡単に売れず、大変だが段々とスキルが上達していき、少女から垢抜けた女性へとスターは変貌していく。

熱い!ブンブンの魂をグァングァンと揺れ動かしてくる。

☆脚本も凄い!
また、本作は非常にユニークな脚本になっている。移動式雑誌訪問販売グループの営業シーンのテクニカルな話法はもちろん、何故少女は親に「スター」というあだ名を付けられたのかという細かいところまで面白い。ユーモアにもエッジが利いている。そして、グループが大切にしている音楽を使ったコミュニケーションにも痺れる。何故、未だに日本公開が決まらないかが分からない程凄まじい。

☆シン・シャカイジンのバイブル
何故、本作がブンブンの心を鷲掴みにしたのか?当然上記のような理由もあるが、なんといっても主人公であるスターが、社会人1年目のブンブンと重なるところがあるからだと思う。新しい組織に入るということは、その組織の文化に歩み寄ること。自分の感性では、「えっ!」と拒絶したくなる文化もあるかもしれない。それでも歩み寄って自分を成長させていかねばならない。だからこそ、主人公スターが成長していった軌跡、スターの後ろ姿に「カッコイイ!」と憧れを抱く。

これは映画館で観たかった!ただ、本当に日本ではアンドレア・アーノルド監督は冷遇されているので、もしどうしても観たい方がいましたら、Amazon等で輸入することをオススメします。そこまで難しい会話は出てこないので、英語字幕を付ければ理解に苦しむことはないでしょう。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUN