Inagaquilala

パーソナル・ショッパーのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

パーソナル・ショッパー(2016年製作の映画)
4.0
第69回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で監督賞を受賞した作品。フランスのオリビエ・アサイヤス監督が、アメリカの女優クリステン・スチュワートを前作の「アクトレス 女たちの舞台」に続いて起用して撮っている。

クリステン・スチュワートは先日観たウディ・アレンの「カフェ・ソサエティ」でもヒロイン役を演じていたので、自分にとってはアメリカの女優さんというイメージなのだが、フランスを舞台にしたこの作品でも立派にパリジェンヌを演じていた。

フランス映画は「午前8時の訪問者」以来、自分としては30本ぶりなのだが、パリを舞台にしたものということならかなりひさしぶりかもしれない。この作品のなかでもあの街の見覚えのある景色がいくつも登場し、それだけでも作品に浸れるのだが(単純だな)、実はこれはなかなか手ごわいスピリチュアルな作品でもあるのだ。

配給会社の戦略なのだろうか、宣伝プロモーションやホームページでの紹介ではほとんど触れられていないが、主人公のモウリーン(クリステン・スチュワート)は死んだ人間の魂と交感できる霊媒としての能力を持っているという設定だ。

数か月前に双子の兄を亡くし、その屋敷で彼の霊を呼び出すところから物語は始まる。かなりオカルトティックな幕開けなのだが、その後はすんなり彼女の日常へと描写が移り、リアルな物語へと移行する。

さて、主人公のモウリーンは多忙なセレブのために服やアクセサリーの買い物を代行する「パーソナル・ショッパー」だ。日本で言えば、品物の購入までするスタイリストというところだろうか。ふだんはラフな服装でショップからショップをモーターバイクで駆け回り、忙しく立ち働いている。セレブの家の鍵を預かり、荷物を運んで出入りしながら、自分の生活とはかけ離れた豪奢な生活に嫉妬も入り混じった憧れを感じていたりする。

シャネルが衣装協力しているということで、ファッションに興味がある人間にとっては、モウリーンのブティックめぐりは垂涎のシーンかもしれない。次から次へと華麗なドレスが登場し、アクセサリー選びのシーンではカルティエの実際のショップなどでもロケしている。そのあたりは、やはりさすがパリが舞台の映画なのだ。

そんなモウリーンのスマートフォンに差出人不明のショートメールが届くあたりから、物語は俄然ミステリー色が色濃くなっていく。まるで彼女の行動を監視しているかのように届くメッセージに、兄の霊を重ね合わせるモウリーン。このあたりのオカルトとミステリーの共鳴の具合は実に絶妙だ。彼女の現状への満たされぬ思いとソウルメイトであった死んだ双子の兄への喪失感が見事に絡まりあいながら、不思議なサスペンスを生み出していく。

またエビソードとエピソードをつなぐブリッジには、フェードアウトを多用して、物語の展開にメリハリをつける。終幕に近づくにつれて、かなり物語を動かすマジックリアリズム的力技も用いられるのだが、エピソードをフェードアウトで括る作法のために、驚きの展開にも割合ついていくことができる。多分そのあたりはオリヴィエ・アサイヤス監督も熟慮に熟慮を重ねた形跡がある。ずっとブラックアウトでつないできたのを、最後だけホワイトアウトにしているのも、なかなか意味深だ。

たぶん、このマジックリアリズム的展開を積極的には流通させないことで、配給会社はファッショナブルなミステリー路線を狙ったのだろうが、それはこの作品の魅力を見誤らせる結果にも繋がるように思う。とはいえ、とにかくオカルトとミステリーの化学反応で妙なるサスペンスを生み出しているこの作品、観ても損はないと思う。
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