butasu

わたしは、ダニエル・ブレイクのbutasuのレビュー・感想・評価

3.0
辛かった。あまりに辛くて悲しくて、観ている間何回も泣きそうになった。お役所仕事のたらい回しで全く行政のサポートが受けられない心臓病の主人公。彼が決して諦めることなく行動を続けるので、観ているこちら側も彼と一緒に役所に憤慨する作り。ただ、一番辛かったのはシングルマザーのケイティ関連の話。二人の子供を抱えていながら仕事にありつけない彼女は、食べ物を子供たちにまわし自分はほとんど口にしない。配給所で人目も憚らず缶詰の中身を手掴みで口にし、我に返って恥ずかしさで泣き出すシーンは本当に辛かった。あまりに可哀想過ぎる。

左翼の監督が撮っているだけあって、役所の人間はかなりシステマティックで心無い人間として描かれている。ちょっと描き方が極端なようにも思うが、実際ああいった融通の効かない側面は確かにあるので否定はしきれない。一応役所側にも人間らしさを残す登場人物を一人出すことでぎりぎりバランスをとろうとはしているし。それでも他の面々が酷すぎるのでかなり厳しいが。役所叩きのために主人公側が全肯定され完全な被害者として描かれており、それもやはり少し極端に感じた。主人公は主治医から診断書を貰って来ることは出来ないのか、とか。ケイティは確かに可哀想だが、学生の身でロクでもない男二人(!)とそれぞれ子供を作ってしまった点は完全に自業自得だし、風俗はしょうがない気もする、とか。その他にも観ていて気になる点がちょくちょくあった。役所に向かって、彼女は子供二人も抱えているのだから多少は融通をきかせろ、と言うのも、実際のところ難しい問題。役所が融通をきかせはじめるとキリがないし、不公平だと文句がついてまた厄介なことになる。この映画では役所の人間以外はほぼ良い人として描かれているため融通をきかせたところで問題は起こらなさそうだが、現実ではそんなことは無いだろう。映画全体としてとにかく役所に対する憎しみが募る作りだが、せっかくの問題提起なのだからもっと感情論ではない問題点を挙げてほしかった。まぁ観客の感情に訴えるのが一番効果的なのは分かる。でもだからこそそこに終始してしまったのは勿体無く感じた。

あと、主人公とケイティは終始見た目が全く変わらないのだが、もう少し痩せたりやつれたりする役作りがあった方が良かったのではないだろうか。

ラストの展開は冒頭から読めるのでショックはさほど無かったが、それでもやっぱり悲しかった。結局ケイティはこの後どうやって生きていくのか、に対する答えや救いを全く見せない終わり方は、監督の政治的意図を強く感じさせた。

とにかく間違いなく心は強く揺さぶられる悲しすぎる映画。
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