シャチ状球体

エリザのためにのシャチ状球体のレビュー・感想・評価

エリザのために(2016年製作の映画)
4.5
窓に石が投げられる。これは、ルーマニア中を覆う理不尽のメタファーである。
娘が暴漢に襲われたのに、共通試験(?)は予定通り行われる。何もなければイギリスに脱出できたのに、合格点に達しないかもしれない。娘が暴漢に襲われたのに、目撃者は無関心。たまたま脱走犯と出会ってしまって、たまたま試験の直前に事件が起きてしまう。

割れた窓はロメオの、そしてエリザや奥さんの心の状態である。
夫婦関係は既に壊れ、ルーマニアは政治汚職が蔓延しており、これ以上生活が良くなる見通しの見えないこの国に生きる人々の心に根差しているのは諦念。

終盤、マテイを公園に連れてきたロメオは、マテイに順番を待たない他の子に石を投げてはいけない理由を答えられなかった。自分が投げられる側だと思っているというのもあるが、本当は投げたいのだ。石を投げて変わるのなら、いくらでも投げたい。しかし、心の奥底では薄々気付いているのである。言葉を用いても、石を投げても、自分は何事に対しても無力だということを。
シャチ状球体

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